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第二章 混沌は闇の中で印を授く

 バルコニーから見下ろす公都は、息を吹き返していた。
 微妙なぎこちなさの中、人々は忙しく復興のために走り回っている。そのぎこちなさは、街の警備兵達が黒い鎧の魔人に変わったためであろうか。
 恐ろしいほどの、ザラの手腕であった。
 そこには、彼女の魔力も働いているのかも知れない。だがそれでも、確実な施政と異常に強固な治安維持が、公都を徐々に立ち直らせているのだ。
 しかし街並みには、暴動を起こした民の血で真っ赤に染まった通りもある。ザラの衛兵は、逆らう者には容赦しない。その事実が、新たな支配者は混沌の魔物であることを、公女に思い出させた。

「いかがかしら?」
 背後から美しい声音で呼びかけられ、エファナートは振り向いた。
 そこにはこの街の状況を作り出した、ザラ本人が立っている。
「……貴方に逆らう民を手にかけたことは、許しません。けれど……街が滅びず、多くの人々が命を長らえていることについては、感嘆しています」
「忌憚のないご意見ですわね。そういう態度、嫌いではありませんわ」
 ザラはマントを風にはためかせながらエファナートの隣に立ち、公都を見下ろした。
 それを待っていたかのように、城からラッパの轟音が鳴り響いた。
 ディアネルの高らかな音色とは違う、混沌の威音が。
 何事かと辺りを見回したエファナートは、遙か足下、城の門前に多くの民衆が集まっていることに気付いた。その大部分は黒い鎧の戦士達に先導されており、ザラが命令して集めさせたことが分かる。
「これは…?」
「ご心配なさらずに。ちょっとしたセレモニーですわ。街の新たな支配者が誰であるのか、そして公国の象徴は健在なのか、民に知らせておかなければならないでしょう?」
 まさか虐殺でも始まるのかと戦慄していたエファナートは、ザラの言葉を聞いて息をついた。
 やはりこのザラという将軍、混沌とは言えかなり道理の通じる人物のようだ。
 もしかすると、事態はそれほど悪くないのかも知れない。手をつないでルキナと遊ぶ妹の姿を想像して、エファナートは少しだけ希望を取り戻した。
「お聞きなさい、公国の民達よ!」
 ザラの良く通る声が、魔法で増幅されたのか、公都全体に響きわたった。
 同時に公都のあちこちで光の渦が巻き起こり、バルコニーに立つザラとエファナートの姿が、巨大な幻影となって現れた。公都の空にいくつも立ち上がった自分の姿を見て、エファナートは改めて混沌の魔術の強大さを知った。
「公王とディアネル信仰による誤った治世は、終わりを告げましたわ! 今日この時よりレクトラント公国は、真の神ヴァイアランス様の名の下に統治されるのです。貴方達の信ずる神聖公女も、己れの間違いに気付き、ヴァイアランス様への帰依を誓いましたわ!」
「っ!?  ザ、ザラさんっ!?」
 公国の民達がざわめいた。突如ザラが発した偽りの声明に、エファナートは思わずくってかかる。
「何を…誰が、いつ貴方の神に帰依などを?」
 しかしザラはエファナートを相手にせず、さらにその美しい声音を張り上げた。
「その証として、これより、私と公女の婚礼を行いますわ!」
「ザラさ…きゃっ!?」
 ザラの髪の毛が、エファナートに襲いかかった。深紅の髪は数本束ねられて触手のように蠢き、エファナートの体をバルコニーの柱にくくりつける。たちまち、公女はバルコニーの中空で磔にされてしまった。
 エファナートの眼下で、民衆達が次々と怒りの声を上げた。彼らはまだ信仰を失ってはいない。混沌の支配下に陥っても、公女への非礼を許せないのだ。
「は、放して下さい、ザラさん! これは何の真似です!?」
 必死に首を回し、背後に立つザラを見据えたエファナートは……ザラの肉体の変化に気付き、声を失った。

 美しく流れる腹筋の下…柔らかい茂みの生えた下腹、そこに。
 あったのだ。ルキナがフェリスを辱めていたのと同じ、醜い器官が。

 女性の隠し所のやや上部から、逞しく生えたその器官は、おそらく魔法で隠されていたのだろう……霧が晴れるかのように、姿をにじませながら現れていた。
 同じ情景は、街全体に幻影として見せつけられている。多くの民衆はそれが意味する所を理解し、悲鳴にも似た叫びと怒号が、街路に溢れ返った。
 だが、エファナートにはその意味が全ては分からない。分かるのは、ザラが今から男女の秘め事を、民衆達の前で行おうとしている、そのことだけだ。
「や、や、やめて下さいっ! ザラさん…ど、どうしてこんなことを!?」
「言っておきましてよ。新たな支配者を知らしめるセレモニーを行うと」
 ザラの温厚な美貌に、残忍な光が宿った。瞳は獲物をいたぶるようにエファナートに注がれ、唇には勝ち誇った笑みが広がる。
 美しさが増していた。これこそ、ザラの本性なのだ。
 蛇が絡みつくように、背後から抱きしめられた。
 ザラの右腕はそのままエファナートのドレスを引き裂き、下着を破り捨てる。
「や、いやああああっ!?」
 公都の空に大写しになった自分の秘所を目にして、エファナートは絶叫した。
 隠したくても、四肢は万力のような力で締め付ける髪の毛に捕らわれ、動くことも敵わない。バルコニーの高みから、公女の涙が次々と舞い散った。
「や、やめっ…やめて下さい……見ないで……」
 顔を真っ赤にしてうなだれながら、エファナートは震えた。
「綺麗ですわ…手入れも行き届いているし、気品がありますわね。私のペニスを受け入れるにも、十分合格ですことよ」
 ザラは高ぶりを隠さず、声を掠れさせながらエファナートの胸を揉み始めた。ドレスの束縛から解き放たれた乳房は、神聖な女性には少々大きすぎるボリュームを、たっぷりとザラの掌に楽しませている。
 空に浮かぶ幻影の中で、エファナートの顔が微妙に変わった。羞恥に胸の快感が加わり、美貌はますます切なげな表情になっていく。

 だが、ザラの巨大なペニスがエファナートの股間に押し当てられた所で、街は怒りを爆発させた。
 怒号に混じってディアネルの名が連呼され、民は次々と黒い鎧の戦士に投石を始める。逞しい男達はあり合わせの武器を手に取ると、公女を救わんと城の門に殺到した。
「あああっ!? お止めなさい、いけません! 逆らっては…!!」
 エファナートが制止した時には、手遅れだった。
 黒い戦士がハルバードを一振りするや、その回りの人間は紅い染みとなって石畳を飾った。暴動にすらなっていない。屠殺だ。
「ザラさん、お願いです! 貴方の戦士達を止めて!」
 街はパニックに陥ろうとしていた。圧倒的な力の差に気付き、逃げようとする者。それを乗り越え、死んででもディアネルへの信仰を貫こうとす者。人の波はぶつかり合っては砕け、黒い戦士の歩むままに赤い模様が広がっていく。
 ザラはその様を愉快そうに見下ろしながら、エファナートの耳元で囁いた。
「私は、逆らう者を殺せと命じてあるだけですわ。民達を逆らわないようにする最も効果的な手段は……エファナートさん、貴方がご存じではないかしら?」
「…!」
 エファナートはザラの言葉の意味に気付き、青ざめた。
 けれど、虐殺を止めさせるには、これしかない。
「お待ちなさい!!」
 一際威厳に満ちた神聖公女の声は、街の混乱を一瞬だけ止めた。
 民達は皆、頭上で屈辱の姿を強いられた公女を見上げる。抵抗する者なしと見たのか、戦士達も武器を降ろした。
「私は………私…は……」
 エファナートは血を吐くように声を出すと、顔を伏せた。
 涙を堪え、無理矢理に笑みを浮かべる。
「…私は、ザラ様を愛しています。これは私が望んで行う、ヴァイアランス様の婚礼の儀。ディアネル様のものと異なり戸惑うでしょうが、落ち着いて下さい」
 戸惑いとざわめきが、さざ波のように街に広がった。
 公女の声は、かつて公国健在の頃、民に語りかけるのと同じ、優しく穏やかなものだった。
 凄まじい辱めに会わされながらも、幻影の公女は幸せそうな笑みを浮かべて頬を染めている。
「ザラ様……」
 公女が首を曲げ、自分から混沌の魔将に唇を預けると、街の暴動は完全に収まった。
「上出来ですわ…」
 耳元でザラが囁いた。触手の拘束を緩め、優しく全身に手を這わし、まるで本物の恋人のようにエファナートを愛撫し始める。
「ああ…ザラ様…は…ぁ…」
 甘い息が公女の口から洩れた。
 エファナートは決意していた。
 たとえこの身をいかに堕とそうとも、公女の誇りと民の命だけは、守り抜こうと。



 エファナートのサラサラとした愛液を指に絡めながら、ザラは淫靡な笑みを浮かべた。
 清楚な女の仮面を剥ぎ、淫らな獣に調教してやることが、彼女の愉しみ。高貴な者を屈服させ、自分が真の支配者であることを知らしめるのが、彼女の悦び。
 だから、レクトラント公国の神聖公女を手に入れるというのは、混沌の魔将であるザラにとってもこの上なく魅力的なものだった。
 それゆえ、日頃ライバル視するルキナと手を結んでまで、この国を攻め落としたのである。
 舞台は十分整った。
 数千、いや万に近い公都の住民を前にして、公女を調教する。これほど楽しめるセレモニーはそうそうあるまい。
 ザラはエファナートの重量感ある乳房をたっぷりと楽しんだ後、右手を尻に這わせた。よい形をしている。ペニスをしっかりとくわえ込み、搾り取る為に形作られたような見事な谷間だ。指を這わせると、公女の−−おそらく生まれて初めて流す−−愛液の温かな感触を、張りついた下着越しに知ることができた。
「フフ…滑らかで、熱い……高貴な愛液ですわね…」
 ザラはエファナートの耳元で淫らにささやきながら、そのしなやかな指を一本、禁じられた聖肉の中へ突き入れた。
 愛液に濡れ、快感を知り始めた処女膜に、かなりの衝撃が伝わる。エファナートはビクリと華奢な体を奮わせ、声を上げる。
 …はずだった。

 確かに、エファナートは震えた。だが、彼女は声を上げることもなく、その美貌に温かな笑みを浮かべたままだった。
「……」
 ザラは一瞬目を丸くし、すぐに気付いた。
 この娘は、公衆での辱めに屈さず、最後まで聖女としての微笑みを崩さないつもりなのだ。
「面白いですわ…」
 ザラはエファナートの耳たぶを唇でなぞるようにしながら、右手をさらに巧みに動かした。上品な花びらの狭間を指でなぞり、最も敏感な一点を、強すぎず弱すぎず、磨き抜かれた技術で愛撫する。快感が高まった所で、一瞬愛撫を止める。そして油断が生じた瞬間に、爪でクリトリスの周りを小さく弾く。
「っ!!!」
 エファナートが息を詰まらせた。
 滑らかな太ももが激しく痙攣し、透明な愛液が泉のように湧いてザラの指を伝った。
 だが、それでも、エファナートは声を上げない。滲む涙をまばたきでごまかしながら、うつむき、祈りを捧げる姿勢を取って、民に己れの快楽を見せまいとしている。
 ほう、と小さく賞賛の声を洩らしながら、ザラは改めて剛直をエファナートの股間に押し当てた。
 再び、群衆がざわめいた。しかし今度は暴動には至らない。あくまで公女としての聖性を崩さないエファナートの姿が、この凌辱に対しても確かに婚礼めいた神聖さを与えているのだ。
 さすが神聖公女と言うべきか…ザラは調教というよりむしろエファナートの力を試す心持ちになりながら、無造作に、その処女を貫くことにした。
 丸みのある尻を両手でつかむ。腰をわずかに引き、突き上げる。

 今度こそ、エファナートの体が激しく揺れた。ザラのペニスから逃れるようにつま先立ちになりながら、歯を食いしばり、天を仰いで痙攣している。
「はぁ…く…」
 公女の処女肉を犯す快感に、思わずザラの方が、溜め息めいた空気を吐き出していた。
 名器…とはまだ言えないかも知れないが、その素質を十分に備えた、良い肉付きの膣だ。窮屈な粘膜を押し開き、巨根の先端はすぐに子宮口にまで達した。それを押し上げるように、挿入を続ける。エファナートが口から息を搾り出すようにして、体を強ばらせた。
 ペニス全体が挿入を終えた所で、ザラはたっぷりと腰をくねらせながら、エファナートの髪を撫でた。
 公都の上空は赤く染まっている。大写しにされたエファナートの幻像が、破瓜の血を流しているからだ。民衆のざわめきは大きくなっている。無理もない、公女が目の前で新たな支配者に犯されたのだ。そしてこれから…公女が雌犬になる所を見れば…
「いかがかしら…? ヴァイアランスの婚礼は。さあ、民達が心配しないように、答えてあげなさい…」
 エファナートの粘膜は、快楽と苦痛に狂ったように、ザラのペニスに絡みついている。いくら精神力の強い者でも、もはや耐えられはしないだろう。

「こ…ぁ……婚礼…は……ぉ…こなわれ…ました……。安心…なさい…こ、これから…も…公国は…私達が……」
 エファナートは、声を振り絞り、話していた。
 ザラは驚きつつ、腰を動かし始める。エファナートの処女の膣は、明らかに混沌に侵され、悦びに狂い悶えながら、ザラのペニスを受け入れている。だが、エファナートは雌犬の声を上げない。公女の顔を崩さない。
 ザラは認めた。エファナートは、この程度の凌辱では堕ちない、聖女の魂を持っているのだ。相手の力が自分と拮抗している戦いを好むザラにとっては、エファナートの魂の強さは、むしろ喜びだった。
 凌辱はここまでだ。エファナートには、より知略を尽くした調教を用意してやらねばなるまい。
「よく耐えましたわ。貴女の力、認めざるを得ませんわね」
 ザラはエファナートの耳元でささやくと、一気に腰の動きを速めた。激しい抽送に、エファナートの処女はたちまち絶頂まで引き上げられる。だが今度は逆に、声を出すいとまも与えない。リズミカルに、微妙な強弱をもって、しかし凄まじい速度で動くザラの腰が、エファナートの絶頂に切れ目を与えないのだ。
「くっ…う……ぁ」
 ザラは低く呻くと、エファナートを背後から抱きしめ、腰を密着させた。
 射精している。
 尋常な量ではない。ザラの逞しいペニスから吐き出された大量の精液は、公女の無垢な子宮を数秒で満たし、泡となって二人の太ももを滴った。

「…婚礼は成就いたしましたわ。これより始まるヴァイアランス様の治世を喜びなさい、民達よ! 公国は、ヴァイアランスの神聖公女によって統治されるのです!」
 ザラは高らかに叫ぶと、マントをはためかせながら民衆に背を向け、バルコニーから去った。
 背後からの応えはない。 公都の全ての人間が、目の前で行われた淫らな婚礼に声を失っているのだろう。
 だが、ザラはそんなことを気にしてはいなかった。
 心が躍るのだ。久々に、調教しがいのある逸材を手に入れたことで。
「思いがけない楽しみを見つけましたわ…。エファナートさん、これからの日々…楽しみですわね…」
 背後から抱きしめ、ペニスを挿入したまま、愛しげにエファナートの頬を撫でる。

 エファナートは、聖女の微笑みを浮かべたまま、気絶していた。
 
 


(紡ぐ物語は、ひとまずここまで)

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