■蛇体礼拝堂SS 龍の娘達


「…と言うわけだ。両性具有とはいえ相手はいずれも竜族……油断なきよう」
 ダンジョンマスターの、静かな、それでいて強い意志を感じさせる声が、闇に響いた。
 確かな位置は知れぬ迷宮の中枢……闇の中に浮かぶは、主の目が放つ光と、魔水晶が映し出す守護者達の顔。

 迷宮でしばしば行われる、守護者達の会議である。階層を離れることが少ない各守護者達は、こうして魔水晶を通し意志を疎通する。
 今夜の通達は、迷宮に迫りつつあるという三体の竜についてであった。
 二匹は暴虐な金龍。かの肉神アーセカの領域で暴れていたという、まごうことなき悪龍どもだ。
 そして残る一匹も、獲物の髑髏を狩り集め、竜王沙婆迩(サバニ)ですら手を焼く暴竜だと言う。

「肉神竜王いずれの御方にも使いを送ってはいるが、彼女らの目的は分からない。メリン、メラン、ルキナ、ザラ、レイシャ。お前達は非戦闘員を抱えている…特に気を付けなさい。それとプリンセス=プリナ……貴方はくれぐれも、さらわれないように」
「あ、はい…気を付けます……」
 美姫は水晶の映像の中で丁寧に一礼した。
「でもさ、一匹はドクロとか好きなんでしょ? じゃあ、セルージャの所に行くんじゃない?」
「メランお前なァ、ドクロしかねえヤツのドクロ取ったって、自慢にならねーだろ?」
 セルージャの返答に、いくつかの水晶からクスクスと忍び笑いが漏れる。
「以上だ。連絡を怠らぬように」
 迷宮主の一言で、水晶の光は次々と消えていった。

***

 魔山ヘキサデクスを覆う厚い雲を切り、ガウォーラは空を舞っていた。
 ガウォーラが生まれた空中国家に較べれば、魔界の太陽は鈍く涼やかだ。
 穏やかな陽光に青い鱗を煌めかせながら、ガウォーラは飛ぶ。久々の飛行を楽しむこともなく、四囲…いや八囲、全ての方位に感覚を張り巡らせながら。
 そう、ガウォーラは迷宮に迫り来る悪龍を迎え撃つ、斥候の使命を受けたのである。

 実は、ガウォーラには気になることがあった。
 かつてガウォーラ達が住む空中国家バシュバストを襲った、異界より来たりし二匹の金龍人。竜闘士達との激戦の末追い払ったあの龍と……噂に聞く悪龍が、似ているように思ったのである。日照りと疫病を故郷にもたらし、光と熱の術で多くの竜人を倒した憎き悪龍。あの戦いを思い出すと、今でもガウォーラの中の闘士の血が騒ぎ出す。
 だがあの龍はどちらも雌だった。果たしてそれは…ガウォーラの思い過ごしなのか…それとも……

 風が変わった。
 ガウォーラの耳が、翼が、わずかな風の動きを感知する。これは、龍が風に乗る流れだ。それも……二つ!
 ガウォーラは低く息を吸うと、大気に満ちた雷鳴の力を体内に取り込み始めた。全身を走る青き雷電の血が燃え上がり、両手に握る短剣”ヴランギー”を電光が包む。
 そして、それは来た。
 絡み合う雲を切り裂き、蒼天に二筋、黄金の軌跡。

 −−やはり奴らであったか!!

 ガウォーラは翼を切り返すと、かつて剣を交えた二匹の悪龍の前に飛び出した。

 負けはしない。今の拙者には……究極の武術、ヴァイアランスがあるのだ。

***

 パオ=シーとバオ=フェイは、かつて多くの世界を荒らし回る暴龍であった。
 二人は思うがままに熱と病を操る。彼女らが通り過ぎた世界の国土は渇き、飢え、燃え、幾筋もの凄惨な爪痕を残した。
 ただ、本能のままに壊す。それだけのために、姉妹は生きていた。

 だがある時訪れた世界で、二人は途方もなく巨大な存在に打ち負かされた。
 天を埋め尽くす肉の塊。あるいは美しい戦女神か、腐り果てた死骸の王か。千の姿で現れる、その名は肉神アーセカ。
 魔神の手で姉妹はひとたまりもなく引き裂かれ、黄金の鱗は天から世界中に散らばった。

 しかし、肉神は何を思ったのか、姉妹を甦らせたのである。
 それも、その身に新たな器官を与え、その心に新たな息吹きを吹き込んで。
 かくして姉妹は、両性具有の金竜として生まれ変わった。破壊しか知らなかった本能は、より重大な命……肉の交わりを知り、姉妹は狂ったように交尾を重ねた。重ねて、重ねて、姉妹がお互い以外の誰かの肉体にも興味を示し始めたその時、肉神は告げた。

 両性具有の至高神・シオン=ヴァイアランスの神殿に巡礼し、かつての破壊の罪を償えと。

 かくて姉妹は数多の世界を旅し、ついにその神殿を擁する迷宮の上空まで辿り着いたのである………

***

「久しいな、悪龍パオ=シー、バオ=フェイ! 
 ここで会うたるこそ龍牙の定め、これより先にはこの雷闘士ガウォーラ=シス、翼の一打ちとて参らせぬ!!」

 ガウォーラは両手の短剣から雷を放ち、腰よりはヴァイアランスの武器”ぺにす”を雄々しくそそり立たせながら、威風と共に名乗りを上げた。

「…………?」
「………へ?」
 しかし二匹の悪龍……かつては名乗り終わる前に打ちかかってきた……は、キョトンとした目つきでガウォーラを見返した。
 二匹の姿はかつてと変わりない。黒髪に金の鱗のパオ=シーが姉。銀髪と金の鱗が妹のバオ=フェイ。四本の腕は禍々しく伸び、うち一つには邪剣を携え…
「むっ……!!?」
 だが、そこにはもう一つの武器があった。姉妹の引き締まった股間より伸びるは、熱く硬く張り詰めて、金の輝きすら帯びている……
「それは”ぺにす”!! お…お主らも、ヴァイアランスを修めたのかっ!!?」
『はいー!?』
 姉妹はますます訳が分からないという顔で、頓狂な声を上げた。

「ねえバオ…誰、こいつ…? ヤバイ人…?」
「ううん、姉さん…私覚えてる。確か、バシュバストで青竜人達を率いていた……」
「そう、青竜の将・ガウォーラだ!」
 どうやら、敵はガウォーラのことを覚えているらしい。だが…とぼけるとは、なんと武人らしからぬ行い!!
「ええいお主ら! かつての暴虐に飽きたらず、武人を愚弄する卑怯な行い、もはや我慢ならぬ! 我が雷電で引き裂くが相当なれど…」
 ガウォーラは短剣をしまうと、両手に二本の”ぺにす”を握り、叫んだ。
「今の拙者はヴァイアランスの門徒! なればこの活人剣にてお主らを成敗してくれる!」
 そう。ガウォーラは、ヴァイアランスの修行の中で学んだのだ。
 敵を倒し命を奪うばかりが「武」ではない。
 敵を活かして命を与えることこそ、ヴァイアランスの「武」!
「いざ!」


「………………」
 大音声で叫び、自らのペニスを握っているガウォーラを、金龍の姉妹はなぜか唖然として見つめていた。
 ガウォーラは理解しないが、それはそうである。ヴァイアランスを武道と偽られ、カンチガイしたまま極めてしまったガウォーラ。はたから見ると、かなり……
「…変だ」
「…変ね」
 姉妹はポツリとつぶやくが、ガウォーラは”何が?”と辺りを見回して返す。
「姉さん、どうする? ちょっと…おちんちんが二本もあったり、凄いし…興味あるけど…なんか変……」
「…フフ。大体、分かっちゃった。ここは任せて♪」
 二匹は何ごとか話し合っていたが、姉のパオ=シーがガウォーラに目配せすると、一気に近くの山頂へと急降下した。
 ガウォーラはバオ=フェイが襲い来る様子のないことを見ると、すぐさま姉龍を追う。
 雲がまだ眼下に広がる、荒涼とした岩山の頂き。そこで岩に手をついて、パオ=シーは……

 金色のラインの入った美しい尻を、ガウォーラに向けくねらせていた。
「久しぶりね、ガウォーラ=シス! この勝負、受けて立つわ! さあ来なさいっ!」
「むうっ…良い覚悟でござる!」
 ガウォーラはパオ=シーの背後に降り立つと、二本のペニスを握り、その尻にあてがった。
 やはり二匹の龍、ヴァイアランスを学んでいたのだ。だが……負けぬ!

「はあ……姉さんのスケベっぷり、病気ね…。自分の能力が漏れてるのかしら」
 バオ=フェイが上空で呆れたようにつぶやくが、もちろん、ガウォーラの耳には入らなかった。


 ガウォーラは、胸苦しく、息が荒くなるのを抑えながら、パオ=シーの尻を撫でた。
 ヴァイアランスの稽古の時はいつもこうだ。切ないような…苦しいような…それでいて愛おしいような…およそ戦いとかけ離れた感覚を覚える。
 だがこれこそ、ヴァイアランスの戦い。
 パオ=シーの尻にある二つの穴は、一つからふんだんに液体を分泌し、戦意を露わにしていた。
「…参る!」
 ガウォーラは逞しい腰に力を溜めると、ゆっくりと、二本の”ぺにす”で金竜の双穴を貫き始めた。
「くうっ…!? ああっ…ウソっ…バオより……お大っきいいいいいいいい!!」
「ん…むぐうっ! なかなかに…守りが硬うゴザル…」
 パオ=シーの体内は、熱く濡れていながらも、きつく閉じてガウォーラの攻撃に耐えていた。二本の”ぺにす”に、とろけた肉襞とよく締まる肉壁、二種類の感触が襲いかかる。だがまだまだ未熟……ヴァイアランスの修行を重ねたガウォーラの”ぺにす”を、落とせるほどではない。
「んんっ! んぐゅ! すっ凄い…二本同時なんて…はぁぁあ……」
「フフフ…どうやら暴虐不尽のお主も…んっ…ヴァイアランスの修行はまだ足りぬようにござるな!」
 ガウォーラはわずかに笑みを見せると、パオ=シーの小ぶりな尻をしっかりとつかみ、腰を叩きつけ始めた。パオ=シーの長い尾がガウォーラの胴に絡みつき、肉穴は歓喜するように収縮を始めた。
 …押している!
 かつては敵わなかった暴龍…だがやはり、ヴァイアランスの戦いでなら勝てる!
 ガウォーラは悦びを抑えつつ、油断なくねっとりとパオ=シーの中をかき回し続けた。
「はああああっ! ふうっ…ひぐううっ! いっ…イク……」
 間もなく、パオ=シーは全身を震わせ、ヴァイアランスの”白い稲妻”を、岩壁にまき散らし始めた。昔は残忍な光しか宿さなかった目が、霞がかったように甘く濡れ、時折愛おしそうにガウォーラを見上げる。汗ばんで金色に光る肉体は、少しでもガウォーラを感じようとするかのように、押しつけられ絡みついて来た。
「…………」
 憎いはずの敵が、憎くなくなる。抱きしめ、体を隙間無く合わせたくなる。戸惑いつつも……ガウォーラは、これがヴァイアランスの力と知っている。
「うむっ…パオ=シー……」
「ふぁ…んんんっ…んちゅ…ん…」
 ガウォーラはパオ=シーの体を抱き上げ、背後からその口を吸った。互いの柔らかな汗の匂いが鼻孔を満たす。ガウォーラは金龍の甘い唾液をすすり、嚥下してから己れの唾液を注ぎ込む。その二人の頬に、パオ=シーが放つ白い液体が降りかかる。
「んむっ…拙者も…もう……ぁぁ……」
 ガウォーラはその美貌を快楽に歪め、パオ=シーの胸と”ぺにす”をつかみながら、激しく腰を振った。
「はあっ…初めてっ…他人の精液…初めてもらうのっ!! ガウォーラ…いっぱい出してぇええええ!」
「くうう!!」
 ガウォーラの腰が勝手に律動を始め、二本の”ぺにす”から熱い稲妻が放たれた。力強い竜の腰つきに誘われ、二筋の液体はパオ=シーの奥へ奥へと撃ち込まれていく。
「は…ぁ……」
 パオ=シーが幸せそうな忘我の笑みを浮かべると、その胎内に熱が宿った。かつては大地を焼き尽くした熱が……優しく愛おしく、ガウォーラのペニス全体を包んで、より激しい脈動を促す。
「熱いッ…くう……パオ……」
「ガウォーラ……」
 ガウォーラはかつての戦いの憎しみも忘れ、無心にパオ=シーと舌を絡めた。二人の間から流れ出た白い液体が、奔流となって岩肌を駆け落ちていた。

「はぁ…はぁ…はぁ…」
「凄かった……アタシの負け……」
「い、いや…ヴァイアランスの戦いに…負けはござらぬ……ただ…互いが活かされた…はぁ…はぁ…」
 潤んだ目で抱き合う二人の側に、もう一つの影、バオ=フェイが降り立った。
「ね…ねえ…ガウォーラさん」
 先ほどまで姉を呆れて見ていた目は、涙ぐむほどに欲情している。内股になって笑う膝には、愛液が川のように流れていた。
「私とも……勝負……して……」
 バオ=フェイは風に乗って舞い上がると、姉の上に覆い被さるようにして、同じく濡れきった尻を向けた。
「アタシ達を…メチャクチャにして……あの時の…反対に……」

「…承知」
 ガウォーラは改めて姉妹に二本の武器をあてがうと、深く力強く、貫いた。

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