「ナあ、ししゃーる〜。ししゃ〜るぅう」
「ウルサイ!」
シシャールは怒りにトサカを震わせると、追いすがるシェムを振り切るように歩を速めた。
「ししゃーるぅ! 何デ怒ってル?」
だが、長い四つ足で歩くシェムの方が歩みは速い。すぐにシシャールを追い越して、振り返った。
「るきな様トざら様ガ、オッシャッタ! 危険ナ竜ガ、イルカモシレナイ!」
シシャールは言いながら、神殿の外れ…地下水脈の影響で川と湿地が多いこの地を見渡した。
迷宮に暴竜来る、の報に、平和に浸っていたヴァイアランス神殿は、聖戦決着以来絶えて無かった戦の緊張に包まれた。
戦士達は見回りを怠らず、遊ぶ子供達の周りからは親が離れることもない。
そしてシシャールとシェムは、その能力を見込まれ、二人一組となって神殿外縁の警備に当たることとなったのである。
「るぅ、ししゃ〜るぅ…」
しかし…根が脳天気なシェムは、かつて軍隊にいたシシャールと違い、こうした任務には向かないらしい。
「シェ……ム……」
シシャールはもう一度シェムを怒鳴りつけようとして……絶句した。
「ししゃ〜る…交尾…しヨウ…」
いつ、あるいはいつから発情していたのか……シェムは長い尻尾をピンと立てて陰部を丸出しにすると、それをシシャールに向けて振っていた。
褐色の柔肌の中にピンク色の花びらが露出した、シェムの性器。人間に較べると少しシンプルな形状のそれが、食虫植物のように開閉してシシャールの男根を誘っている。淫らな肉唇がピクリと開く度に、鮮紅色の膣内が垣間見え、潤沢な愛液と性フェロモンの匂いが噴き出していた。
「ン…ンっ……」
視覚にフェロモンの刺激も加わり、シシャールのペニスは瞬時に勃起していた。
本能的に、性交しているかのように腰が動き出してしまう。柔トゲの生えたペニスからは、泡を立てつつ先走りが溢れた。
「池…見てたラ…ししゃーるに初めて交尾さレた時思い出しテ……発情しちゃッタ……」
「ナ…ナ…あ……」
さきほどまでの攻撃的な口調はどこへやら、シシャールはたちまち顔を真っ赤にして、萎縮してしまった。
シシャールは、自らのことを醜いと思っている。
生まれた時から醜い怪物として扱われた。だから、神殿に来て皆に賞讃されても、恥じてしまうばかりで受け容れられないのだ。
シェムは美しい。あの美しい顔。立派な耳飾り。長く伸びた野性的な手足。逞しい尻尾。
けれど自分は……汚い鱗の色に、不快なたてがみが生え、手の形も体の形も、そして生殖器の形も醜い。醜い醜い。
そんな自分がシェムにのしかかって、つがうなんて……たまらなく悪いことに思えてしまう。
「ソンナ…私ナンカト…ヤメロ…しぇむ……」
シシャールは勝手に動いてしまう腰を隠すように前屈みになりながら、必死にシェムから目をそらした。
けれど、シェムから放たれる甘いフェロモンは、シシャールの中の生殖本能をすでにとろかしてしまっている。
「俺、ししゃーるのコト好きだゾ。だかラ交尾しよウ。俺に乗っかっテ…」
「…………」
シシャールとて、シェムは好きだ。
力を抑えず本能のままに、奴隷同士で交われるシェムとの交尾は、好きだ。
けれど……けれど……けれど……
本能には、敵わなかった。
シシャールは恥辱と罪悪感に押しつぶされ、目に涙を溜めながら、シェムにのしかかった。
シェムの美しい性器を、スパイクの生えた醜いペニスが貫いていく。きっとすぐに、汚れた精液をシェムの中にぶちまけてしまう。
悲しく、恥ずかしく、ためらうけれど……快感に溺れた腰は、動きを止めなかった。
***
眼前で始まった激しい交尾を、バーバレラは目を丸くして見ていた。
意識せぬうちにペニスが反り返り、固く締まった腹筋を擦る。股間はかすかに震えて、草むらにポタポタと白い露を垂らしていた。
クソっ…なんでこんな時に……!
バーバレラは毒づいてペニスを握るが、その刺激で逆に声をあげそうになり、慌てて息を押し殺した。
バーバレラは、狩人だ。
様々な種族の強者を狩り、勝利の証としてその頭蓋を持ち帰ることを趣味としていた。
性には興味がなかった。
竜王沙婆迩(サバニ)の領域の竜達には、両性具有の個体も多い。
バーバレラもある時発情して、同じ両性具有の竜と交尾した。だが、わずかな痛みの後、相手が自分の中に何かを排泄するだけの行為……ただ、それだけだった。狩りの興奮と快楽に較べれば、遙かに及ばない。
バーバレラはひたすら、狩りと殺戮を楽しんだ。
しかし……竜王は何を考えたのか、バーバレラの力に封印を与えた上で、この迷宮へと送り出したのである。
バーバレラは迷宮の闇を這い、どうにか竜王の封を破ろうとして……
この湿地に隠れていると、いつの間にか目の前で激しい交尾が始まってしまったのである。
逞しい体をした美しい碧のトカゲは、四つ足の茶色いトカゲの尻に乗り、凄まじい勢いで腰と尻尾を振っている。
じゅぼ、じゅぼ、と、物凄い粘液音が、湿地に響いていた。時折、碧のトカゲがトサカを震わせ、切なそうに震える。すると、そいつの下半身からツガイの下半身に注ぎ込まれる液体の音が、バーバレラの鋭敏な耳に飛び込んでくるのであった。
なんでオレは…こんなのに見とれてるんだ……
あんなの……別に……大したことじゃ……
自分にそう言い聞かせる。だが、力強く動く二匹の美しい尻から、目を離せない。
反り返ったペニスは生き物のように激しく脈打ち、膣と尻の穴が勝手に収縮した。
「ぅあううっ!!」
押し殺した声が、堪らず漏れた。
バーバレラのお椀型の胸の谷間から、ねばつく粘液が吹き上がり、バーバレラの顎から股間まで長い糸を引いた。
射精してしまったのだ。
「誰カイルノカッ!?」
「だレだっ!」
二匹のトカゲは、互いの下半身から粘液の吊り橋を何本も垂らしながら、草むらに飛び込んできた。
反射的に、バーバレラは飛びすさろうとする。
だが……腰から下が何もなくなったような感覚に襲われ、池の暖かい水に転げ落ちた。
「ぷあっ! んっ……んんっ!?」
体勢を立て直そうとして、バーバレラは自分の体がまともに動いていないことに気付いた。
下半身には全く力が入らなくなって、ただ交尾をねだるように、ペニスと女性器だけがビクビク震えている。
「あ…!」
完全に欲情してしまったのだ。狩人が、獲物の交尾を目にして。
バーバレラは初めて味わう羞恥に頬を染め、必死に水の中に隠れようとした。
「待テっ!」
「ししゃーる…こいツ、発情してルぞ」
茶色いトカゲの言葉に、碧のトカゲ…シシャールは、攻撃態勢を解いた。
「コイツガ…るきな様達の言ッテタどらごんカナ…」
「でも、発情してル! きっと俺達の交尾見テ、発情したんダ! やったナししゃーる!」
「しぇむ…バカっ!」
茶色いトカゲ…シェムの言葉を聞くと、なぜかシシャールは顔を真っ赤にしてシェムを叩いた。
「黙れ、お前らっ!! チクショウっ…」
バーバレラは血が沸騰しそうな怒りと恥辱を覚えながら、両手を振るった。
普通なら手の甲から飛び出した刃が、敵を切り裂くはずが………
何も変化がない。竜王に封印されているのだ。
ただ、水面から出たペニスの先端が、恥ずかしい音を立てて先走りを噴き出した。
「…………ッ!!!」
バーバレラは混乱と羞恥の極みに陥り、凛々しい眉を八の字にして、頬を染めた。
「なーナ、オマエ、何てゆーんダ? 悪いのカ? 悪くないのカ? トカゲなのカ? 竜? 交尾好きカ?」
身動きの取れないバーバレラに、シェムの巨体が覆い被さり、にこにこ笑いながら質問攻めにする。
「なっ…あ………えっと……ば、バーバレラ…トカゲじゃない! 竜だ!」
何を答えてるんだオレは、とどこかで思いつつ、バーバレラは反射的に叫ぶ。
「ばーれら? うん、ばーれら、俺達と交尾するカ?」
「オ、オイ、しぇむ!」
シェムはにこにこと笑い続け、背後から困ったようにシシャールが呼びかけている。
二人の体にはみっしりと美しい肉が付き、雄と雌どちらとも違うフタナリの性臭を、たまらないほど放っている。
そしてまだ粘液にテラテラと光る、二人の股間。
バーバレラは言葉もなく、ただ、うなずいた。
狩人が獲物と交尾する……そんな恥辱すら……興奮に変えながら。
周りの池の水が濁るほど、バーバレラの二つの性器から愛液が漏れだしていた。
「サ、来い、ばーれら!」
「しぇ、しぇむ! だめダ…コンナノ……」
シェムにうながされるまま、バーバレラに美しい尻を向けるシシャール。
太い尾は交尾に備えて高く掲げられ、緑と白の美しいグラデーションが、なめらかな尻を引き立てている。
大きな尻の狭間にある一筋の性器は、バーバレラの挿入を期待してか脈々と体液を溢れさせていた。
だがなぜか、シシャールは恥じらいに顔を紅くし、交尾をやめたいとシェムに哀願している。
「だめダ…私ジャ…しぇむ、オマエガ!」
「はぁ…はあ…はあはあ……な…なあ……いいのか……? 交尾して……?」
発情で狂いそうになっているバーバレラは、爆発寸前のペニスを必死に押さえ、二人に尋ねた。
「いーゾ! ししゃーるは、自分ガミニクイと思ってルから、オマエと交尾したくなイだけなんダ」
「みにくい……?」
バーバレラは、一瞬欲情も忘れてシシャールの顔と体を見渡した。
「何言ってるんだ…お前らが…こんなに…綺麗だから……オレ……こんなに発情しちゃって……」
「ヤメ…ソンナコト…言ウナ…」
涙を一粒こぼして目を閉じたシシャールの股間から、感極まったように潮が吹き上がった。
それをペニスに浴びた瞬間、バーバレラの中からは狩人の誇りが消え、変わりに多淫な竜の生殖本能が、嵐の如く沸き上がった。
「うああああああっ!」
バーバレラはあられもない声を上げると、シシャールの尻尾に抱きつくように、腰を打ちつけた。
ペニスを包む、熱くぬめる肉の沼。快感が尾底から背骨を突き抜け、脳髄を灼く。
「はああっ…はああああっ! オレっ…オレ、トカゲとこんなコトしてる!! こんなコト…キライなのにっ!!!」
「しゃるぅっ…ひゃうっ…るううううう! ダメ…ばー…れら…汚イヨォォオ!!」
二人はそれぞれ涙を流し、交尾に堪らない罪悪感を覚えながら、勝手に動く腰に翻弄されていた。
信じられないような勢いで、自分の尻が振られている。ペニスは溶けてシシャールの性器と一つになり、ただそれをかき混ぜているような錯覚に襲われる。
「ひゅごっ…すごいいいい!! 交尾って…交尾って、こんなに…こんなにいいいい!!!」
初めて味わう牡の悦びに夢中になったバーバレラは、背後にシェムが回り込んでいることにも気付かなかった。
「ばーれら…もっト、交尾しよウ!」
先端が膨らんだ、メイスのような形のシェムのペニスが、バーバレラの未熟な膣にねじ込まれた。
「ひゃうああああああああっ!!?」
快感の塊をぶち込まれるような感覚に、バーバレラは絶叫した。
初めて交尾した時とはまったく異質な快楽が、視界を揺るがし、体を芯から溶かしていく。
たまらず、シシャールの中に子種をぶちまけた。止めるように哀願するシシャールの尻に爪を突き立て、先の割れた舌同士を絡め合う。バーバレラが初めて体験する膣内射精は、今まで避けてきた性の喜びを貪り尽くすかのように、止まらない。
「交尾…あぁ…交尾ぃ……俺…もうっ……」
もう…
こいつらと交尾できなかったら生きていけない……
胎内にシェムの熱い子種が注ぎ込まれるのを感じつつ、バーバレラは麻痺した思考でつぶやいた。
***
結局、バーバレラはシシャールとつがったまま神殿に運び込まれた。
性の喜びに溺れ、交尾なしではいられなくなった”暴竜”が、神殿に奴隷として受け容れられたのは言うまでもない。
ちなみに、シシャールがその尻の魅力で敵を捕らえたのは、これで通算二度目となった。
そんな名誉を褒め称えられ、シシャールがトサカの先まで紅くなったのも、これまた言うまでもない。
***
「じゃあ…ウソだったの!?」
「そうだ」
「悪趣味ですわね……」
「そうだな」
二人の守護者が不満そうに眉をしかめるのを水晶越しに見つつ、迷宮の主は淡々と答えていた。
「肉神殿も竜王殿も、期待以上の興になったとお喜びだった。よくやってくれた」
「まあ、ボク達が仕込んだコらだから、そーゆーコトなら適任だったけど…なんだかなあ。ぶーぶー!」
「ガウォーラやシシャール達が出くわすことまで計算していたなんて……呆れますわ」
ルキナとザラは表情を和らげつつも、まだそれぞれ文句を続けている。
そう…三体のドラゴンが迷宮を襲いつつあるというのは、神殿の竜達と偶然に近い出会いをさせるための嘘。
全ては、魔神達の興趣のために仕組まれた、ダンジョンマスターの計り事だったのである。
「まあそう言うな。諸神が新たな奴隷を三人も下さったのだ…ヴァイアランス神への寄進として」
「ま、確かにね。あのバーバレラってコ、気が強くって育てがいがありそうだし♪」
「金龍達も……なかなか素晴らしい逞しさですわね…くすくす……」
二人の神殿守護者は胸に抱いた新たな奴隷を愛おしそうにながめると、水晶の彼方に消えていった。
「異界の龍同士の交配か……興味深い」
ダンジョンマスターもまた、積み重ねた本の一冊を静かに閉じると、紅い軌跡を残しながら闇に溶けていった。
(了)