Xmasスペシャルストーリー2

サワナのクリスマス
















 ドアを蹴破ると同時に、腰だめに抱えたショットガンが火を噴いた。
 振り向いて、立ち上がろうとした白人の男がふたり、顎から下、襟元までの肉を無数の3ミリベアリングに引きちぎられる。
 赤いプラスティックの空薬莢が宙を舞う。
 奥のドアが開いて、別の……今度は日本人らしい男がひとり、拳銃を片手に部屋へ飛び込んでくる。
 手にした銃が火を噴いたが、弾丸は女の頭部を覆う……黒地に黄色と赤で派手なファイアパターンを描かれたフルフェイスのヘルメットの表面に、かすり傷を着けただけにとどまった。
 素早く身をかがめながら、しなやかな肢体をヘルメット同様派手なファイアパターンを描いた、艶やかな黒のライダースーツに包んだ女は、ショットガンの台尻(ストック)を床に押しつけるようにして引き金を引いた。
 斜め下からの散弾に、男の顔面が消失する。
 立ち上がりながら踏み込みに転じ、女は頭を無くした男を突き飛ばすように、ドアの向こうへとなだれ込んだ。
 銃弾が男の死体に次々と食い込む。
 部屋の中には何人かが待ち伏せていたらしい。
 女は即座に死体の襟首をひっつかんで盾にしつつ床へダイブし、円を描くようにして転がりながら、次々と自動装填型ショットガンの引き金を引いた。
 床を転げ回る女の視点は上下左右に入れ替わり、悲鳴のような雄叫びがヘルメットの内側から漏れる。
 7つの空薬莢が転がり、ショットガンのボルトがオープン状態のまま止まった。
 女は自分の代わりに弾丸を喰らった男の死体を押しのけ、弾を撃ち尽くしたショットガンを杖にして、ゆらりと立ち上がった。
 フルフェイスのヘルメットから漏れる息は、荒い。
 その周囲、白く塗られたばかりの壁と真新しい床には血と、内蔵と肉片がべっとりと塗りたくられ、動くものは無い。

 ぎい。

 素早く振り向いた女の前で、ずらりと並んだロッカーのひとつが軋んで開いている。
「……」
 安堵の溜息をついて、何気なく視線を前に向けた女のバイザーに、歯をむき出しにした怒りの形相を浮かべ、両手にしっかりと小型リボルバーを握りしめた黒人男が映る。
 何らかの用事で外に出ていて、彼女の攻撃を免れたのだろう。
「Dam Fuckar!」
 気抜けしたあとだけに、一瞬、身をひねる動きが遅れた。
 弾丸が浅く女の右腕の肉を削ぐ。
 2発目は、とっさにかざしたショットガンのストックに命中し、グラスファイバー製のストックを貫通した弾丸は、軌道をそれて壁に着弾する。
 
 だが、男は慌てることなく三発目を放とうとした。
 
 撃鉄は起こされている。
 
 腰の後ろにあるオートマチックを抜く暇は無い。
 
 女の右足が、コンクリートを踏み砕いた。
 
 破壊されたコンクリートの破片が高々と宙を舞う。
 
 腰を落とし、真っ直ぐに突き出された男の両手をかいくぐりながら、半身に構えた女の左拳が、黒人の胸に打ち込まれた。
 
 手首までめり込む打撃だったが、男はその場から動かなかった。
 男の目が大きく膨らみ、眼球が飛び出すと同時に顔中の穴という穴から一斉に赤黒い血が噴き出す。
 
 女の顔の横で、僅かに上を向いた銃口が火を噴いて、一瞬前まで女のいたはずの空間を撃ち抜いた。
 
 吹き出した血がバイザーを濡らした時、コンクリートの破片がぱらぱらと床に落ちて音を立てた。
「……」
 女は血肉に染まった拳を引き抜くと、右腕の傷口を押さえながら、別人のように弱々しげに踵を返した。
 男は立ったまま絶命している。
 立ち去ろうとして、足を止め、拳を濡らす血を、壁にこすりつけるようにして「とある紋様」を描いた。
 
 銃声を聞きつけた近所の通報で、このビルに警官がやってくる頃には、女の姿は何処にも無く……そして、死体に残る入れ墨と、事務所の奥にある奇怪な祭壇から、ここが最近隆盛を極めている「異次元の神を信奉するテロ集団」のアジトであると判明、マスメディアは壁に残された「とある紋様」をめざとく発見し、「また『テロハンター』の仕業か?」と色めき立つことになる。
 
 そう……マスコミに「テロハンター」と呼ばれる彼女の襲撃はここを含めて30件以上に登るのだ。 

                    ☆

 ただただ広いだけの床面積を持つ「箱」としての建物。
 バブル経済が弾けてから以降、このような「とりあえず作っておく」的なビルが廃墟に転じるのは珍しくもない。
 管理もいい加減で、上手くすれば電気はともかく、水道が生きている事も多いので、彼女のような存在にはうってつけの隠れ家だ。
 あの襲撃から2時間と経過していないが、すでに彼女の姿は数十キロ離れたこの廃ビルの中にあった。
 理由は、彼女の側に鎮座している汚泥まみれのV−MAXだ。
 この大排気量のバイクを駆って、地下の下水道を全力疾走したのである。
 今もエンジンからは陽炎が立ち上り、マフラーは灼けて、下水の汚泥が乾ききってぱらぱらと思い出したように剥落していた。
「い……いぎいっ!」
 ペンチで曲げ、ライターであぶった縫い針が、銃弾のえぐった傷口にくい込むたびに真紅の血の玉が溢れ、引き締まった筋肉質の腕を流れていく。
 ライダースーツは引き締まった腹筋の浮かぶ臍のあたりまで脱がされ、脂汗に濡れた上半身が露わになっている。。
「痛いよ……痛いよぉ……」
 打ちっぱなしのコンクリートの床に、埃っぽい空気に、フルフェイスのヘルメットの奥から彼女……サツキの押し殺した嗚咽が響く。
 その姿は、数時間前までの、冷徹な殺人マシーンのような動きからは信じられないような弱々しさだ。
 うめき続けながら、サツキは傷口を縫い終え、もう一度消毒スプレーをかけて包帯を巻くと、大きく息を吐いて、壁にもたれ掛かる。
 痛みのあまり、全身に鳥肌が立ち、薄いピンク色をした半球状の乳房の先端がしこり立っていた。



「よく頑張ったね」
 澄んだ声が、彼女の背中に投げられる。
 振り向くと、そこには深々とアポロキャップを被り、革のジャンパーにジーンズという、ラフな格好の少女が立っていた。
 顔は、常にうつむき加減にしているのと、深く被った帽子のためによく見えない。
 いや、どんな角度でも、サツキが彼女の顔を見たことは、ない。
「これで249人……あと51人であの娘に会えるよ」
 楽しげな声に、サツキはヘルメットを脱いで鋭い怒りの視線を向けた。
 短く切りそろえられたショートヘア、通った鼻筋……そして印象的な切れ長の眼が、先程まで泣き叫んでいた人物とは思えないほどの精悍さで少女を射る。
 それだけで、同性愛趣味のある中学生なら失禁してしまいそうな凛々しさだ。
 事実、数年前までは、彼女が空手部の試合に出るたび、観客席で何人かの少女が倒れることが珍しくなかった。
「本当なんでしょうね?」
「ああ、間違いないよ」
 少女はゆっくりと頷いた。
「ラネーシアの神は永劫にして全能、全ての次元の出来事を見ている……君が神に捧げる供物と、その意味もご存じだ……300人殺せば、君はちゃんと彼女のいる世界へと招かれるよ」
 狂っている。
 少女の並べた言葉を、恐らく十人が聞けば十人がそう思うだろう。
 誇大妄想の、あるいは精神異常の産物だと。

 だが、サツキは信じた。

 信じるしかなかった……そうでなければ、彼女が密かに想いを抱いていた少女の消えた理由の説明がつかない。
 彼女の同級生で、同じアルバイト先でウェイトレスをしていた野村澤菜は、異次元から来た怪人たちに連れ去られてしまったのだ。
 しかも……その身体の秘密を店内にいた全ての人々にさらしながら。
 男と女、両方の器官を持つ……いわゆる両性具有の澤菜は下から女陰を、上からは男根を嬲られ、激しい射精を店内にぶちまけながら青い光りに包まれて消え去った。
 警察は「幻覚剤を周囲にぶちまけて行われた大胆な誘拐」とした。マスコミもそれにならった。あるいは大規模な集団幻覚だと。
 当時、店にいたお客も、従業員もマネージャーも、その意見に納得した。
 
 だが、当時、ビデオカメラに残された映像は、店内の至る所にぶちまけられた精液は、そしてサツキはそんな言葉に納得は出来ない。
 
 その瞬間、ショックと同時に、今まで感じたことのないほどの欲情を覚え……サツキは生まれて初めて射精したのだから。
 
 サツキもまた、両性具有者であった。
 
 ただし、それまで彼女の男根は、射精はおろか勃起すらしない、小指ほどの大きさしかない、ただの排泄器官の一部にすぎなかった
 
 それが、下着を引き裂くほどに巨大に勃起し、彼女は自分のショーツの中に生々しい男の汁をぶちまけたのだ。

 それ以来、サツキの人生は狂った。
 
 澤菜にもう一度会いたい……会って、彼女を抱きたい、彼女に貫かれたい。
 
 そんな妄執にも似た想いが黒々と胸の中に立ち現れたのだ。
 
 一度は全てを忘れようとした。だが、夢の中で澤菜を犯し、澤菜に犯される夢を見て、夢精にまみれて目覚める夜が続き、やがて空手の練習の最中でさえペニスが勃起し、胴着を愛液とザーメンに汚すようになり……ついに堪えきれずに体育倉庫の中で後輩3人を立て続けに犯し、高窓から漏れる夕日を背に、三つの引き締まった尻の中へ射精しながら、彼女は己の中の「獣」に全てをゆだねることにした。
 
 学校を辞め、うろたえる両親をよそにありったけの金を掴んで家を出た。
 
 警察に、ニュースに、ネットに、あらゆる情報を探し求めた。時には怪しげな探偵にまで依頼をした。さらには国内のあらゆるオカルト資料をひっくり返し、国内に手がかりが存在しないと知ると海外へ出た……パスポートは空手の試合で海外に出るためにとってあった。
 
 この、アポロキャップの少女に出会ったのはアメリカのアーカムとかいう田舎町にある大学の図書室だ。
 
 彼女もまた、サツキと同じ存在に興味を持ち、資料を探っていたのだという。
 
 彼女は手に持った分厚い古書(破壊の跡も生々しい鍵が表紙についていて、広げるとテーブルを半分占領するほどの大きさを持っていた)を広げ、あるふたつの紋様を指し示しながら告げた。
「これがラネーシアの紋章。これが敵対する神の紋章。あなたの想い人を連れ去ったのはラネーシアよ。もし、貴方が彼女を取り戻したければ、ラネーシアの神に生け贄を捧げなさい。この敵対する神の紋章を着けた連中をね……幸い、数は多いわ」
 300人、と少女は数字を示した。
 300人を殺せば、ラネーシアの神は異世界へ続く門を開き、彼女を「神の戦士」として招き入れる。
 ラネーシアの民となれば不老不死になる。あとはじっくりと澤菜を探せばいい……。
 サツキはためらった。
 一瞬、笑い飛ばして全てを諦めようと思った。
 
 だが、彼女の理性を裏切ったのは、またしても股間の肉欲だった。
 
 少女がちろりと舌先で唇をなめ回し、それが澤菜の顔に重なったのだ。
 
 澤菜を犯せる。澤菜に犯してもらえる。
 
 いわれるままに、サツキは少女の手にした小さなカッターで肩にラネーシアの紋章を刻んだ。
 最初の殺人を行ったのはそれから数十分後、相手は同じ図書室の司書だった。
 一度は笑顔を見せていたその男の顔は、この世のものならぬ殺意に血走り、振り上げた千枚通しはサツキの背に突き刺さる寸前だった。

 振り返りざま、男の首筋に鉛筆を突き立て、えぐった。

 血潮を顔に浴びた瞬間、サツキは確かに聞いたのだ。
 
「お前の誓願、きっと叶えよう」
 という、厳かな……男女の性別を超越した何者かの声を。

 血溜まりに倒れた男の首筋には、サツキのものとは違う神の紋章が刻まれていた。

 そして1年。

 敵対する神を崇める連中はサツキの行動を政府関係からの干渉だと受け取ったらしく、急速な結束と武装を進めた。拠点を移動した彼らを追って日本に帰ったサツキは、以来暗闘と襲撃を繰り返し……今日までに、249人の邪教徒を殺してきたのだ。

 ちろり、と小さな舌が赤い唇をなめ回す。
 あの時と同じように。
 その光景を見ただけで、ぞくりとサツキの背中を寒気にも似たものが駆け上る。
「さ、しようか?」
「……」
 サツキは躊躇した。こんな時に……いや、こんな時だからこそ、「あの子」の顔が目に浮かぶ。
 澤菜の顔が。
「人殺しのあとはサツキ、燃えるものね」
 いたずらっぽく歪む唇。
「そ……そんな、そんなこと……」
 人として残る僅かな理性が、サツキの顔を横に向かせた。
 サツキの白い肌は鳥肌を消してほのかに上気し、淫らな汗が幾筋か、鍛え上げた肉体を流れおちる。
 ライダースーツの降ろされたジッパーの内側から、ぱんぱんに張りつめたペニスの先端が顔を覗かせた。
「ほぉら、もぉこんなにぴちぴちしてる……」
 言いながらアポロキャップの少女は手を伸ばし、愛おしげにサツキの股間を革ツナギの上から愛撫した。
「ーーーーーーーっ!」
 びくん、とサツキの肩が震えた。
「熱くて……びんびん掌に感じちゃう……」
 ジッパーが大きな音を立てて引き下ろされた。
 今まで蒸されていた下半身に外気が当たる冷たい感触。
 少女の顔が下がり、サツキのペニスの先端が熱くぬめったものに包まれた。
「んあっ!」
 ぴちゅ、ちゅぶ、ちゅばぶちゅ……
 舌先と亀頭粘膜が水音は、きっとわざと大きく響かせているに違いない。
 仰け反りながらサツキは知っていた。
 口の中たっぷりに唾液を貯めて、ぬちぬちと屹立した熱い肉の塊になすりつけ、こすりつけているのだ。
 視線を降ろすと、アポロキャップの頭が淫らに、小刻みに揺れている。
「顔を……顔を見せ……て……」
「見せているわよ?」

 いたずらっぽく、サツキの股間から少女は顔をあげた。
 
 そうだ、いつも彼女は顔を見せている。
 だけど、サツキの網膜には影の他に何も映らない。記憶にも何も残らない。
(アタシは狂っているのかも)
 ふとサツキは思った。
(ひょっとしたらこれは全て夢なのかも)
 それなら全ての納得がいく。
(きっとある日目が覚めると、そこは病院で、アタシは白いクッションを壁や床に敷き詰めた病室で、一心不乱におちん○んをしごいているんだ)
 くす。
 サツキの顔に笑みが浮かんだ。
(そうだ、夢だ)
 夢なら恐くない。どれだけ気持ちよくても、淫らでも。
 人を殺しても、殺されるような痛い眼に合っても恐くない。
 それは理性がこの狂気の状況に対してサツキ自身へ与えた麻酔のような思考。
 だが、サツキは知っていながらあえてそれに乗る。

 そうでなければ肉欲のために300人も殺すことは出来ない。
 
「指……お○んこに、お○んこに指、入れて……ぐちゅぐちゅ、いつもの……して」
 アポロキャップの少女は笑ったようだった。
 サツキのリクエスト通り、2本の指が、浅く濡れそぼったヴァギナの中に入る……奥へは決して入らない。
 初めては、澤菜にあげると決めているのだ。
 入り口の、もっとも神経が集中している場所を少女の指がなぞり、くすぐり、弄る。
 クリトリスの代わりに、ペニスをしごき、包皮を前歯の先で甘く剥く。
 少女のジャンパーが背中にはだけられ、その下のタンクトップがたくし上げられると、露わになるのはつんと尖った釣り鐘型の乳房。
「ひきいっ!」
 眼からはいる「胸の谷間」という映像(ビジョン)と股間から伝わる快楽の感触に、サツキの腰が震えた。
 思わず射精しそうになるのを、必死に堪える。
 まだだ。もっと悦楽は味あわなければならない。
「ねえ……君……」
 サツキは少女に問うた。
「アタシのちん○ん、どんな感じ?」
 己の唾液と、サツキの先汁に濡れ光る少女の唇に笑み。
「とても熱くて、硬くて……びくびくしてる……だけどピンク色で、生まれたての赤ちゃんみたい」
「おいしい?」
「美味しいよ……このまま噛み千切っちゃいたいぐらい」
 少女の前歯が、悪戯っぽくサツキの先端に食い込み、危うくサツキは漏らしそうになった……もう、長く持たない。
「射精……んんっ……する……け、どぉ……何処に……して、欲しい?」
「おっぱい……おっぱいに、頂戴」
「じゃあ、挟んで」
 少女は言われるままに胸の谷間へサツキのペニスを挟むと、胸の外側から押しつぶすようにして上下にしごき始めた。
 たまらなく柔らかく、暖かく……いやらしい行為。
「もう……もう……だめ……出る……出ちゃう……出ちゃうううううっ!」
 サツキの脳奥に閃光が走った。
 引き締まった長い脚が震え、腰が自分の意志を離れて突き動かされる。
 熱い塊が会陰の奥からほとばしり、ひときわ大きく膨れあがったペニスの先端からぶちまけられた。
 白い液体……というよりも殆ど個体に近い物質が天井高く打ち上げられ、大きく広がりながら落下する。
 飛沫のいくつかはV−MAXの上にも落下し、まだ灼けているエンジンに当たった数滴が蛋白質の焦げる匂いを周囲に立ちこめさせる。
 発射の際の飛沫がサツキの裸身と、少女の上半身をぼたぼたと濡らした。
 数瞬の硬直のあと、サツキの肢体から力が抜け、意外にあどけない半失神の表情を見せながら、サツキはその場にくたくたとくずおれた。
 荒い息が、しばらく廃墟に響き渡る。
「300人達成したら、本当にHしようね♪」
 アポロキャップの少女は手早く身繕いをすると、手にしたハンカチで、びっしりと汗が浮き、自身の精液をまぶされたサツキの身体を拭いた。
 膝を折ったまま、仰向けに倒れたサツキはされるがままに身体を、そしてペニスとヴァギナを拭われた。


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