Xmasスペシャルストーリー2サワナのクリスマス |
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| 「わーいわーい! ねえ、ねえ、レードルも、あの黄色いの、買えるよね!?」 「ゼナは、もっと、えーっと…ごーじゃすなのが、いいでちゅわ〜」 「たゆー」 「はい、はい、分かりましたから、3人とも、ちゃんと服を着て下さいね」 はしゃぎ回る3人の子供達を前にして、サワナは苦笑していた。 レードルとゼナには、子供用のコートを着せ……それでもあまりに大きく胸が張り出すので、幻影の魔法で誤魔化すことにした。 ベビー服を珍しそうに噛んでいるヴェナルティアは……まるで可愛いぬいぐるみのようだ。 「サワナ、準備できた〜? サワナも着替えなきゃ、ダメだよ!」 ぱたぱたと足音を立てながら、コート姿のルキナが部屋に飛び込んできた。 ふわふわのファーがあちこちに付いたもこもこのコートは、どうにかこうにかルキナの体型を隠している。 やけに大きな耳あてと毛糸の帽子は、角を隠すためのものだ。 「ヴェナは、俺が抱こう」 その背後から現れ、静かにヴェナルティアを抱き上げたジェナは、革のジャンパーにジーンズという簡単な出で立ちだった。 「はい…えっと…あ! 私、メイド服のままでした…着替えなくっちゃ…」 サワナは子供達に笑われつつ、昔ミサトに買ってきてもらった地球製の服を手に取った。 この妙な一行が結成された訳は、子供達にあった。 かつてルキナが地球から持ち帰ったぬいぐるみを巡り、レードルとゼナ、ヴェナルティアの3人がケンカを始めてしまったのである。普通なら赤ん坊がケンカするのは無理そうなものだが、そこはヴェナルティア……ぬいぐるみを口にくわえてハイハイで暴走し、神殿は大騒ぎになった。 そこでルキナが一言、「あと2つ買おう!」と言い出したのである。 迷宮のある次元と地球の時間の流れは違う。それは時に速まり、時に遡り、二つの次元の距離と位相に従って様々に法則を変えるものなのだそうだ。 今宵、地球ではちょうどクリスマスを迎えているらしい。 そこで、子供達3人に加え、ルキナ、ヴェナルティアの保護者ジェナ、そして地球出身であるサワナが同行し、レイシャの地球買い出しに便乗することとなったのだ。 「おお…サワナ、かっこいい〜♪」 「そ…そうですか…」 臙脂のコートを羽織ったサワナは、小さく照れ笑いした。 地球にしばしば…夏冬にはなぜか必ず…帰るミサトと違って、サワナは地球にあまり行かない。 地球では、サワナは行方不明者となっている。だから、地球に赴く時は必ずレイシャの魔力を浴び、人相を認識されなくしてから行動していた。 長く両親とも会っていない。いずれ話したいと思いつつも……何か恐ろしくて、会いに行けない。 「外国で暮らしいる」と誤魔化して、両親とも交流のあるミサトが、うらやましい。 それに……何より…… 「……では、参りましょう」 いつの間にか部屋にはレイシャがいて、その周りに皆が集まっていた。 「サワナおねえちゃん! 置いてかれちゃうよお!」 「あ……は、はい!」 レードルの柔らかい手に手首を引かれ、サワナは慌ててレイシャの側に駆け寄った。 「異界門を開きます」 レイシャの細い声と共に、青い光が部屋を満たした。 *** 輝くビルの狭間には乾いた風が吹き荒れ、雪になる様子もない。 闇をたたえた巨大なガラスは……外のネオンよりも、サワナの顔をよく映しだしている。 地球は変わっていない。 自分は変わってしまった。 なら、あの子は…… 展望台に一人たたずむサワナの背後を、幾組ものカップルが談笑しつつ通り過ぎていった。 ここは、首都圏にある、いわゆるデートスポット……真新しい建物が立ち並ぶ一帯でも、一際高いビルの上層である。 子供達とルキナらは、そう遠くないショッピングモールのオモチャ売場にいる。 そこまで案内したサワナは、少しだけ時間をもらい……この場所まで来たのだ。 あの時も、この場所にはそぐわないと思った。 けれどあの時は……二人だった。 まだ二人が予備校生だった冬。 受験を前にした、最後の遊びと約束してやってきた、この街。 買い物を終え、気まぐれで展望台に登った。 辺りは男女のペアばかりで……澤菜と早月は、少しばかりいづらかった。 「サツキ…」 あれは…クリスマスの夜だったのか、ただのクリスマスシーズンだったのか。 二人で見下ろす街並には、幾本ものネオンの木が輝いていた。 そう…あの時は、胸が苦しくて涙ぐみそうだった。 自分がこんな体じゃなければ……恋人同士で、ここに来れるのだろうか…… もし…サツキが自分のことを知って、受け容れてくれたら……恋人同士になれるのに…… 沈んだ表情の澤菜に気付き、早月は戸惑いを見せた。けれどすぐに微笑み、サワナの肩を叩いてくれた。 やさしい子だったのだ。 サツキもまた、行方不明になっていた。 地球に初めて帰還した際……サワナは、サツキを神殿に推挙したいという一心で、思い切って木川サツキの家を尋ねた。 サツキは、家を出ていた。 人相を魔力で隠した状態ではそれ以上何も聞けず、サワナは木川家を後にした。 新聞を見ても……ネットを検索しても……サツキの行方は分からなかった。 サワナはどうしようもなく神殿に帰り、再びルキナ達の愛に抱かれることで、サツキを忘れようとした。 けれど…… 今でも…… その時、爆炎がガラスを紅く染めた。 NEXT |