燃え上がるような熱が、背骨から亀頭の先端までを貫通するように、通り抜けていった。
目の前にあるジェナの肢体。厚く、逞しく、柔らかく、しなやかな、肉体の質感が記憶からこみ上げる。
あの日以来感じていた被虐の欲望、雌獣の欲望が、自分の中で焼き尽くされていくのが分かった。
やはり私はツフトヘルッシャー…生殖の覇者だ。我を真に雌とするはルキナ様のみ。なればこの美しき巨人をも、我が仔を孕む器としてくれよう。
「オオオオオオゥォォーッ!!」
猛きヴィランデルの雄叫びが、戦いの合図となった。
ある者は体を、ある者は言葉を交わしながら、祭殿に集まった戦士と奴隷達の視線が一点に集まる。
「久しぶりだな」
身を低く、レスリングに近い構えでヴィランデルと間合いを取りながら、ジェナが低く美しい声を発した。
「…?」
「覚えていないか。構わん、じきに思い出す」
思いがけず饒舌なジェナの態度に戸惑いを覚えながらも、ヴィランデルは闘争本能でそれをかき消した。
ヴァイアランスの戦いが性のものであるにしても、多くは互いが両性具有、自然と交わりの運びを握る必要が出てくる。
それは多く互いの力の優劣で決まり……今回のような戦いともなれば、交合に至るまでに激しい肉弾戦が繰り広げられるのは必須だった。
生命の支配者・ヴァイアランスの神殿内である。どれだけ重傷を負っても、それが命に響くことはない。
ヴィランデルはジェナを引き裂くかという勢いで、両の鉤爪を振りかざした。
空を裂く音と、微かなステップ。爪の軌道を読んだジェナが正確に退く。息つく間を与えず、ヴィランデルは爪を振るった。右、左、フェイント右、左、そして牙の一撃。
「軌道が単純すぎるぞっ!!」
−−上手いッ!
火花を散らすほどの噛みつきをかわし、ジェナは一転タックルを仕掛けた。地に打ち付けた尾の反動で右に身を振り、起きあがりざまに爪を振るう。
だが、ジェナの姿はない。
「!?」
瞬間、ヴィランデルの体を衝撃が襲った。
身を低くした態勢からの、ストレート。
十分な重さと、速度と、握力を備えたそれは、あたかも砲丸で一撃したかのような威力でヴィランデルを撃った。
硬質な音を立てて数本の肋が折れる。ヴァイアランスの神力が、内臓に突き刺さる肋骨を修復する。追って脳に届く鈍い痛み。
だがそれでも衝撃は和らげられることなく、ヴィランデルの巨体は神殿の柱に激突した。
「くぅ…ッ…ふう…」
殺し合いではないとは言え、ルキナと戦った時以来の醜態だ。ヴィランデルは怒りに唸りを上げ、立ち上がろうとして膝をつき、目を見開いた。
「今の拳……貴様は……!」
「思い出したか。あの時の決着をつけるため、俺は混沌に身を投じた」
悠然と両腕を広げ、ジェナ……かつてアイザーネ=ファウスト、鉄拳の名で知られた伝説の傭兵は、初めて微笑を見せた。
ヴィランデルがまだルキナ麾下に属していない頃、彼女率いるビーストマンと某領地の傭兵部隊が衝突したことがあった。
その最前線で、ヴィランデルは見た。ケイオスビーストマンを叩き潰し、蹴り殺す、異形の巨人を。
「あの時はフルプレートだった……奴…ファウストは、女だったのか!?」
「あの時は、な。もっとも、自分を女と意識したことなどなかったが。…周りにいる男も女も、自分より遙かに卑小だった。無理もないだろう。………だがな」
ジェナは膝をついたヴィランデルの腰に手を回し、その美貌に凄艶な笑みを浮かべて語った。
「あの日、お前と打ち合ったあの時。俺は初めて思った。お前の体の男となら、女として交わってもいい。お前に犯されながら、その逞しい体を、思うままに味わってみたい。いや……お前を、犯したいと」
唇が近付く。
「……初めて、思ったんだ」
重なった。
ジェナの言葉が余韻となって響き、そのあまりに女らしい艶やかさに、誰もが息を呑んだ。ザラが楽しげに「ほう」と声を洩らし、奴隷達に奉仕をさせるルキナが微笑む。
自分の中で沸き上がる雄の欲望に、ヴィランデルは身震いした。激しく勃起したペニスを覆うレザーを、ジェナの指が引き剥がしていく。空気に触れる感覚さえ、身悶えするほど狂おしい。
「お前を犯す夢は叶った。……来い」
戦いの興奮が冷めて性の興奮に変わるにつれ、ジェナはまた無口になっていた。ヴィランデルのペニスを自分の秘所にあてがい、目を閉じる。
−−戦いで押していたというのに、私に攻めさせようと言うのか。
普通に考えれば、これは罠だ。男根で相手を責め狂わせるよりも、自分の名器で精を搾り取る戦士の常套手段だ。
だが、そんなことは抑えにならなかった。
霞み行く思考を本能が消し去り、ヴィランデルは勢い良く腰を突き出した。熱い密度が、腰から先を包み込んだ。
「はあくっ!!」
息を詰まらせるような声を上げて、ジェナがのけ反った。
ジェナの性器は花のように美しく陰唇が重なった作りだが、それも今は限界まで引き伸ばされている。みっしりと詰まった柔らかいゴムを押し開いていくような感覚。濡れた肉で造られたさざ波が滑り降りていく感触。あまりの快感に薄い涙すらこぼしながら、ヴィランデルは己れの巨根をジェナの中に根本まで埋め込んだ。
「あっ!!」
乙女のように儚げな声を上げて、ジェナが精を撃ち出した。ヴィランデルにしがみつくように腕を回し、瞳を潤ませて荒く息を吐いた。
明らかに、女の快楽に翻弄されている。ザラ配下の戦士達がどよめき、ザラとザナタックだけが可笑しげに忍び笑いをした。
まるでこれが初めての性交であるかのように、ジェナは目を閉じてペニスの質量に耐えている。
このまま、この雌巨人の腹に子種を流し込む。ただそれだけの当たり前の行為が、ヴィランデルの欲望を堪らなく燃え立たせた。
「行くぞジェナ……私と交わるのが夢だったと言うなら、叶えてやる。我が子を産めっ!」
ヴィランデルはゆるゆると、腰を引いた。長大なペニスだ。愛液にまみれながらジェナの花弁を擦り、十秒近くかけて亀頭の端を見せる。
一気に、突き入れた。
「ぐああああっ!?」
ジェナの悲鳴。そこからは、まさにケダモノの行為が始まった。
神殿の天井に高い肉の音が響き、赤絨毯は二人の下でよじれ折り重なる。ヴィランデルの力強い一突きごとに、ジェナの逞しい肉体は壊れたバネのように跳ねた。二人の間から泡となってこぼれ落ちる大量の愛液、それに混じって戦士達にまで降りかかるジェナの射精。それは性というものに充溢した生命力を爆発させるような、凄まじい交わりだった。
戦士達も無言でそれを見つめている。憑かれたように、魅せられたように。ルキナが自らの射精に酔い、ザラの上品な口元から一筋唾液が滴る。
「くっ……ふっ……っ……はっ……」
時折こらえた息を漏らすだけのジェナの呼吸も、徐々に間隔を短くしていた。
ヴィランデルの腰が早さを増し、淫らな水音がますます高くなる。
心地よい。あまりにも。ジェナの体に満ち満ちた熱い力が、ヴィランデルの腰に合わせて帰ってくる。その度に締め付け、ペニスの威力に抵抗するかのように絡みついてくる、ジェナの膣壁。交尾と言うよりは戦いに近い。傷ではなく快感が生まれ、肉同士が溶け合う雄と雌の戦い。
「くうぅああっ……!! ヴィランデルっ……来てくれ……お前のっ……お前のぉぉっ!!」
「ジェナっ……孕めっ、我が子をっ!!!」
一際強い腰の一撃の後、二つの肉体はあらんかぎりの力で互いを抱きしめ合った。骨も砕けよという力で筋肉が絡み合い、震え、抱擁の間を凄まじい勢いで生命のエキスが流れていく。顎を上げ、痙攣し、きしむ体の痛みすらも快感に変え、二人は一つになった。
長い長い余韻の後、ようやく引いていく快楽。ヴィランデルは大きく息を吐き出し、初夜を終えた花嫁のようなジェナの匂いをかいだ。
その首筋に、万力のような圧力。
ザラが哀れむような瞳で獣を見下ろす。
逆転する天地、振動する意識。
祭殿の床に叩きつけられたヴィランデルは、ようやく自分が投げられたことに気付いた。
混沌として焦点の定まらない視界の中で、ジェナは胸を反らしてヴィランデルを見下ろしている。薄い陰毛の狭間から流れ落ちる子種を指ですくい、口元に運んだ。
「素晴らしかった。やはり、お前が欲しい」
充足と欲望を同時に体現した両性具有者の性器は、快感の残滓をこぼしながら天を衝いていた。