「ええ? じゃあ、キミ、あの時の? へええ……ほおお! すごおい、自分でこの迷宮まで来たんだー?」
ケイオスヒーロー・ルキナは、あの日とまったく変わらぬ無邪気な声と笑顔で、リリアを出迎えた。
ここは、リリアの住んでいた世界から遙か隔たった、魔界の迷宮にあるヴァイアランス神殿。
ヴァイアランスの戦士として地位を得て、あの日イセスと共にいたルキナの居場所をつきとめたリリアは、次元を渡る旅を繰り返してここに辿り着いたのである。
シャディールの都にできた神殿を上回る、豪奢な装飾と巨大な建物。
居並ぶ美しき両性具有の戦士と奴隷達。
いずれもが、今までリリアが所属してきたヴァイアランス集団と比べものにならない規模であった。
ルキナは広い椅子に奴隷達をはべらせて座り、ペニスに奉仕を受けたままリリアを迎えている。
リリアはその前で礼の姿勢を取って、改めて周囲に名乗りを終えた所だった。
「でも、なんでボクの所に? もしかして一目惚れかな? へへへ…」
「あ、いや、そうじゃなくて……その…」
勝手に照れ始めるルキナを前に、リリアは弁明しようとするのだが……いかんせん、恥ずかしさが先だって言葉が出ない。
「あ、あたしは……その…イセス……イセンブラスを捜してるんだ」
にまにまとしていたルキナは、イセスの名を聞いてきょとんとした顔つきになった。
「イセス? ああ、サムラーイの。ここにはいないよ」
「いないって……じゃあ、どこに?」
「んー、悪いけど、あの時の作戦以来一緒になったことはないんだ。どっかのヒーローの下にいるとは思うケド…」
予測していなかったわけではない。けれどやはり、イセスの情報がないという事実に、リリアは深く落胆した。
「そうか…ルキナ様が知らないんじゃ……」
「ごめんね。でも、せっかくだからしばらくここにいなよ。ボクの所には結構ヴァイアランス全体の情報も入ってくるし。それにこの迷宮の持ち主はムダに物知りだから、そのうち話を聞ける機会があるかもよ」
「あ…ああ、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。イセスの情報が入るまで、の間…」
遠慮がちに言ったリリアだが、正直嬉しい面もあった。次元船や異界門を乗り継ぐ旅で、全身に疲れが溜まっている。熱い風呂や柔らかいベッドにも、ここ一週間ほどご無沙汰だ。
リリアの返答を聞くと早速、ルキナはメイドや奴隷に部屋の用意と荷物運びを命じた。
そして花のような微笑みを浮かべると、リリアに向かって大きく腕を開いた。
「じゃあリリア、少しセックスしよ。旅で溜まってるだろうし……ボクも、リリアのおちんちんを味わってみたいしね」
いきなりのストレートな発言に、リリアは思わず顔を赤らめる。艶やかに濡れた秘所に目が惹きつけられて、声が自然とうわずった。
「え!? いや、でも……あたし……ゴメン、ルキナ様……やっぱり………浮気はできないよ…」
「……浮気?」
広間に居合わせる、リリア以外の全員が、ぽかんとした視線をリリアに送った。
そうだ、忘れていた……ヴァイアランスに、砂漠族流の男女観は、通用しないのだ。
☆☆☆
「…………ん……」
真新しいシーツに寝そべり、腕を頭の後ろで組んだまま、リリアは何となく悩ましげな溜め息をついていた。
あてがわれた部屋は、宮殿での暮らしを思い出させるように、清潔で美しい。サワナというメイドさんが持ってきてくれた料理は、とても美味しかった。
風呂で汗も流したし、この迷宮でならイセスの情報も手に入りやすそうだ。
だのに、なぜリリアが溜め息などをついているのかというと……
それは、腰布を押し上げて自己主張を止めない、逞しいペニスのせいであった。
どうしちまったんだろうな……あたし……
実はリリア、ヴァイアランスの戦士となっているにも関わらず、イセスとの夜以来誰とも性交渉を持っていない。
最初に駆け込んだヴァイアランス神殿の神官が優しい女性で、リリアの事情を承知してくれたのである。高位のケイオスヒーローの「持ち物」である証のルーンを戴いたリリアは、ただ戦士としての働きさえしていれば、神殿での力を手に入れることが出来た。
だからこの立派なペニスも、神に精液を捧げる時に自慰する以外では……使ったことがないのだ。
もちろんそれは、リリアなりにイセスへみさお立てしてのことである。
イセンブラスはヴァイアランス戦士だから、おそらく多くの両性具有者と交わっているだろう。それはそれで嫉妬も覚えてしまう。
だが、リリアは砂漠族の女……心はまだ女だ。その中ではイセスは男。砂漠族の女は、男が多くの妻を持っても貞節を守り続けなければならない。そしてむしろ、自分の男が多くの女に愛されることを誇りに思い、他の妻達とも家族としてふれあわねばならないのだ。
故郷を失ったためか、リリアの中には砂漠族たらんとする気持ちが強い。けれどヴァイアランスの戦士という立場は、それと大きくかけ離れている。
自分のペニスは、ルキナ達と出会ってその交わる様を見て以来、痛いほどに張りつめ、脈打っている。
心と体が引き裂かれてしまいそうなことを、訴えるように…
「…っ……あ…」
軽く布の上から触れただけで、心地よい刺激がリリアの腰を貫いていった。
脳裏に次々とルキナの肢体が浮かぶ。張りのある柔らかそうな乳房、少女のようにふくよかに閉じた性器。褐色の性器は灯りの中で見たイセスのそれと重なり合って…
あたしをイセスが抱いてくれたみたいに、これをルキナのおまんこに入れたらどうなるんだろう……
ルキナのおまんこを貫いて、寝台の上で抱きしめたり、ケモノのように背後から交わったり…
「……はあ! 何考えてんだよ、あたしは…」
リリアは大きく頭を振って、寝台から起きあがった。
これじゃあまるっきり、男みたいだ。
あ……だから男ってのは、たくさん相手を欲しがるのかな…
紅潮した顔で頬杖をついたまま、リリアはもう一度、悩ましげな溜め息をついた。
それでもやはり、体は収まらない。仕方ない、寝る前に一度だけと、リリアがペニスに掌を添えると…
コンコン、と硬いノックの音が部屋に響いた。
「サワナでございます。リリア様、何かご不自由ございませんでしょうか?」
廊下から聞こえるのは、部屋の世話をしてくれているメイドの声だ。
リリアは声がかすれないように気を付けながら、返事をした。
「ああ、別に…大丈夫だぜ」
「差し支えなければ、お休み前に御奉仕させていただきますが…」
『奉仕』という言葉の意味を想像して、リリアの胸は痛みに似た興奮を覚える。
青い髪で、落ち着いた雰囲気の、あのメイドを自由にできるのかと思うと、それだけでペニスは射精を始めてしまいそうだった。
思わず立ち上がってノブに手をかけようとしたリリアは、その寸前で立ち止まり、うなだれた。
「……いや、いい。疲れてるから、今夜はすぐに寝るよ。ありがとう」
「承知いたしました。お休みなさいませ……」
コツ、コツ、と柔らかな足音が遠ざかっていった。
これでいい。
あたしはイセスのことを思っているんだから、貞節は守らなくては。
それは分かっているのに、なぜかひどい後悔が胸を締め付けて、リリアは深く溜め息をついた。
☆☆☆
「申し訳ありません、ルキナ様……やっぱり、私では力及びませんでした…」
「へへ、いいのいいの。おいで、サワナ…」
恐縮して瞳を潤ませているサワナを抱き寄せると、ルキナは深い椅子に腰掛けたまま、サワナの体を愛撫し始めた。
豊かな肉体の反応を楽しみつつ、リリアはもったいないことするなあ、などと呟く。
「それにしても、サワナに誘われて断るなんて、結構やるなあ。一人で迷宮に来るくらいだから、根性座ってるよね」
ルキナの声に応え、部屋に集った一同が頷いた。
ここは神殿の一画にあるサロン。今日リリアを出迎えた広間とは違い、もう少しプライベートな用途に使われる部屋である。
ここでは戦士や奴隷も比較的うち解け合い、その晩のパートナーを決めては寝室に移る…というのが一つの定番になっていた。
部屋にいるのは、ルキナとサワナ。戦士は獣王ヴィランデルと魔術師のレディオス。そしてレディオスの脇には、同じく魔術師の優等生奴隷・ミルファが座っていた。
「そうですね…ヴァイアランスの印をいただきながら禁欲しているなんて、可哀想ですわ…」
宙に浮かべたクリスタルにリリアの様子を映しだしながら、レディオスは色っぽく眉を寄せた。
ルキナ配下でも随一の「大人の女」オーラを持つレディオスだが、その実態はかなりの世話焼きである。ルキナのリリア誘惑にこうしてつきあっているのも、リリアの身の上をそれなりに案じてのことであろう。
「しかしルキナ様、なぜあの娘にこだわるのだ? 確かに優良な交配相手だとは思うが……」
すでに臨月も近く、鍛えられた腹筋の下がぷっくりと膨らんだヴィランデルは、クリスタルをのぞき込みながら不思議そうに言った。
「んー、レディオスの言うとおり、可哀想だなーってのも、あるよね。あとやっぱり、ああいう真面目な子ほど意地悪したいなー、とか。いざイセスに会えた時のこともあるし…」
片手でサワナの胸を揉みながら、ルキナは空いた指を折っていく。
「でもやっぱり、あれだな。リリア可愛いもん。エッチしたいよ〜」
情けない声を出すルキナに、一同笑いながら頷き合った。
「ではこうしましょう、ルキナ様。私が今から少しだけ、リリアさんに呪文をかけますから……オナニーを始めた所に踏み込んで、強引に連れて来ちゃいましょう」
両手の指に淫魔法の明かりを灯しながら、レディオスは悪戯っぽく微笑んだ。
「なるほどな……しかし、どうもその必要はなさそうだぞ」
ヴィランデルがクリスタルを指さし、ルキナ達もそこへ目線を注ぐ。
ルキナは一瞬目を丸くすると、呆れたように笑った。
「あやや。もう始めちゃってるよ」
☆☆☆
こんなに自慰が気持ちいいのは、初めてだ。
サワナを追い返し、扉の前にたたずんだまま、リリアは自分のペニスをしごき始めていた。
逞しく血管の走ったペニスは、中に熱い火が詰まっているかのように、重い快感を伝えてくる。引き締まった太ももを開き、壁に手をついて、リリアは立ったまま自ら生み出す快感に溺れていた。
「く…くぅぅ……はぁぁ…」
自然と顎が上がり、声が洩れる。夜の静寂にそれは大きく響いてしまうが、声を抑えるほどの理性が働かない。
脳裏に次々と、いやらしい妄想が浮かんだ。リリアのペニスをしごきながら、抱いてくれるイセスの姿。小さなお尻を振って、リリアを受け入れているルキナの姿。そしてメイド服の胸をはだけ、リリアのペニスをしゃぶっているサワナの姿。
「ひっ…く!!!」
自分がどういう体勢で自慰しているのか思い出した時には、リリアの最初の精は辺りにぶちまけられていた。
腰がガクガクと震え、リリアの子種汁を壁に叩きつけていく。
拭き取らなくては…と頭では思うのだが、手はますます固くなるペニスを離さない。
「うあっ! ……あたしの…あたしのコレ、どうなってるんだ…全然……収まらない……うああああっ!?」
激痛にも似た勃起感に、リリアは堪らず膝をついた。
実はこの時、遠く離れた場所でレディオスが「絶倫」の魔術を重ねがけしているのだが、リリアには知る由もない。
ただでさえ衰えを知らぬ精力に、魔力で無理矢理エネルギーを詰め込まれ、リリアの胎内の精巣は破裂しそうなほどの欲望を生み出し始めた。
「ああああっ…止まらない…なんで…ぐううぅぅっ!!」
ベッドに頭を預け、よだれを垂らしながら、リリアは己れのペニスを搾り上げる。撃ち出された精液は天井近くまで噴き上がり、ぽたぽたとリリアの美貌を汚した。
ペニスはさらに反り返り、三度目の絶頂が骨盤に迫る。
リリアはなんとかそれを抑えようとペニスを握り、その刺激で一気に昇り詰め……
三度目の射精と同時に、ドアが開かれた。
白い飛沫が飛び散る中、部屋に入ってきたのは……白い、美獣だった。
「…!!? あ、だ、誰だお前っ!? あ、え、あ……」
来訪者に驚き、ついで自分の状況に気付いたリリアは、シーツを引っ張って下半身を隠しながらうろたえた。
まだ放出を続けるペニスは、シーツをじっとりと濡らし、ようやく止まる。だが驚きで自慰は中断されても、腰の燃えるような熱さは変わっていない。
「リリアと言ったな。我はヴィランデル。ルキナ様麾下のケイオスビーストマンだ」
リリアを見下ろす魔獣……ヴィランデルは、リリアの痴態などまったく意に介さぬ様子で、悠然と名乗った。
凄まじい巨躯だ。
2m…いや、2m50はある。全身は寸分の隙もなく強固な筋肉で覆われ、それでいてメスの部分だけは豊かに脂肪を残していた。
自分が女らしさに欠け、筋肉の付きすぎた体格をしていることにコンプレックスを持っていたリリアだが……
そんな悩みが馬鹿馬鹿しくなるような、常識外れの美しさを備えた肉体だった。
「いきなり入ってきて……何の、用だよ?」
「貴様を連れに来た」
ヴィランデルは無造作に、そう言った。
「部屋を汚すと、メイドどもに迷惑だ。子種はきちんと子袋に出せ」
あまりの言い方に、リリアは怒りと羞恥で顔を真っ赤に染め……しかし、「子袋」という言葉が、ヴィランデルの体の一点に注意を向けた。
「ヴィランデル……あんた、妊娠してるのか?」
白い毛皮に包まれながら、規則正しく並んだ腹筋。その下部は、中にボールでも仕込んだように、綺麗に膨らんでいる。
体に対するバランスのせいで、すぐには気付かなかったが……これは、子供がお腹にいるのではないだろうか。
「ああ、そうだ。だから私が貴様の相手をするわけではない。他の者だ」
「別に…あんたに何かしようなんて思っちゃいないさ。こんな格好で言うのもなんだけど……間に合ってる、帰ってくれ」
リリアは今にも射精を再開しそうなペニスを隠しながら、ヴィランデルから顔をそむけた。
「イセスとかいう戦士に義理立てしているのか」
ヴィランデルはフン、と獣らしく鼻を鳴らす。
「そのザマでは、イセスとやらも貴様を抱きはしないだろう」
「な、なんだって!?」
リリアは思わず、ベッドの脇に立てかけてある曲刀を手に取った。
「何を怒っている。腰の使い方も知らず、膣の締め方も分からぬような戦士が、ヴァイアランスで通用すると思うのか」
「く…」
痛いところを突かれた。
薄々感じてはいたのだ。ヴァイアランスの戦士として交歓に慣れたイセスは、もしかすると自分のように不器用な女を相手にしてくれないのではないかと…
「相手が何も知らぬうぶなオスであるならともかく……な。鍛錬もせずに惚れてもらおうなどと、虫が良すぎると思うぞ」
その口調から侮蔑的な言い方は減り、ヴィランデルはいつの間にか真剣な眼差しでリリアを見ていた。
「我々は協力できる」
「……………」
分かっている。
分かっているけれど、どちらも取れないのだ。
砂漠族としては、やはりイセス以外の者と交われない。
けれどヴァイアランスとしては、交わりの魅力に欠ければイセスに嫌われてしまうかも知れない。
「…考えておけ。夜半になっても、誰かは起きている。床に招けばいい」
ヴィランデルは窮屈そうに扉をくぐると、廊下のほの明かりの中へ消えていった。
☆☆☆
「……上手くいくと思ったのだがな」
照れたように椅子に座り込んだヴィランデルを見て、ルキナは思わずくすくすと笑った。
出ていく時は自信満々だったヴィランデルである。腕ずくで連れてくる、逆らうなら一回上に乗ってやろう、などと言っていたのだが…
「ずいぶん優しかったね、ヴィル」
サワナを自分の上にまたがらせ、その尻を両手で抱えながら、ルキナはヴィランデルにウインクした。
「……なんとなく、パスナパを思い出してな。……なんとなく、だ」
それきり、ヴィランデルは腕を組んで黙ってしまった。
「それにしても、本当に我慢強い子ですね。オナニーも止めてしまったわ…」
唇に指を当てて、レディオスは悩ましげにクリスタルを見ている。
「そだねえ。よおし、じゃあ次は……」
ルキナが思案を巡らせ、サワナを犯す腰を強めると…
「あ、あの、ルキナ様」
今までレディオスの脇で静かな愛撫を与え合っていたミルファが、思い詰めたように発言した。
「ん? なーに?」
「僭越ながら……リリア様が拒否されるのなら、無理強いすることはないと思います。禁欲には……自然に終わりが来ますし……」
「うーん」
ミルファの過去を思い出して、ルキナはその唇に小悪魔の笑みを浮かべた。
魔術師だったミルファは、両性具有である自分の体を嫌悪し、ずっと禁欲を強いてきた。それがある時ルキナに出会い、一気にヴァイアランスの奴隷として開花を見せたのである。
案外、ミルファが行けちゃったりするかなあ…
「よっと」
「ふきゃああ!? ひゃ、ル、ルキナ…様ぁ…あ…」
ルキナが突然立ち上がり、サワナは慌ててルキナに手足を絡めた。今のが強い刺激になってしまったのか、ルキナの肩に顔を埋めて、絶頂を迎えている。
「じゃあミルファ、キミが連れてきてよ。ダメだったら諦めるから、その代わり、ミルファが少し相手をしてあげてきて。お口とか、おっぱいとかでいいからさ」
「え? え? わ、私がですか……?」
小さな眼鏡を直しながら、ミルファも焦って立ち上がった。
「うん。ボクは寝室に帰ってサワナと色々やってるから…ね。えっと、ヴィルとレディオスは?」
「私はパスナパの所に戻ろう」
「そうですねえ…私も帰ります。私がお世話してあげるには、少し「大きいお姉さん」すぎたかも知れませんね」
二人の戦士達も、それぞれソファーから腰を上げた。
「じゃ、そう言うことで、ね!」
戸惑うミルファを置いて、ルキナはサワナと繋がったまま、勢い良く部屋から飛び出していった。
「リリア様…来て下さるといいですね」
「そだね♪」
サワナと口づけを交わしながら、ルキナは無邪気な笑みを浮かべるのだった。
☆☆☆
「リリア様、失礼いたします。ミルファ=ビーチェと申します」
今日神殿に辿り着いた新たな戦士へ、ミルファは丁寧に頭を下げた。
戦士リリアはまだ収まりがつかないらしく、腰布の中で大きくなったペニスを必死に隠している。
辺りの壁は綺麗にされていた。奴隷達に気を使って下さったのだな……と、ミルファは理知的な唇に優しい笑みを浮かべた。
「あ、ミルファ…か、よろしく。あたしはリリア…聞いてるかな?」
「はい」
「何人も来てくれて悪いけど、ほんと、あたしは大丈夫だから」
明るく手を振っては見せるが、辛さを隠しきれないリリアを見て、ミルファはルキナの判断の正しさを改めて認識する。
「はい。でも、一応お伝えいたします。リリア様は体が火照ってお辛いでしょうから、ルキナ様の寝室にお呼びするようにと申しつかりました。そしてもし、リリア様がそれをお断りなさったら、私が口や胸で御奉仕してきなさい、と…」
「ん…」
リリアは顔を赤らめると、何か逡巡するように、自分のペニスに目を落とした。
話には聞いていたが、確かに砂漠の王族たる気品を持った、美しい方だ。戦士の格好をしていても、ミルファが帝都で見た怠惰な貴族達とは全然違う。
贅肉の一つもない筋肉と、なのに女性らしい胸や腰。奉仕する自分を想像して、ミルファは思わず胸を熱くした。
「リリア様…」
白いブラウスのボタンを外すと、はちきれそうな白い乳房がこぼれ出る。
魔術学院時代から随一の大きさで、神殿に来てからさらに成熟した、自慢の胸だ。
静かな、しかし素早い動きでベッドの前にしゃがみこむと、ミルファはリリアの熱いシャフトに胸を押しつけた。
「…!」
リリアは慌てて腰を引こうとするが、ミルファの胸の間からじわりと先走りが滲むと、呻きながら震えた。
「私も禁欲をしていたことがあって……お辛いのは、よく分かります。ですからこれは、私の胸を使って、ただ自慰をなさってるのだとお思い下さい…」
丸い眼鏡の奥で、ミルファは真摯な瞳をリリアに向けた。
いつかきっと、リリア様にも肉体を自由に解放できる時が来る。だからそれまで、禁欲のお邪魔をしない程度に、奉仕してさしあげれば…
「…あ、あのさ」
「はい?」
何か意を決したようなリリアの声を聞き、ミルファは胸を揺り動かそうとしていた手を止めた。
「ミルファは…元はどんな国にいたんだい?」
「私ですか? 私はエンパイアという帝国で、魔術の勉強をしていました」
そうか、と呟くと、リリアはまたしばらくの間沈黙した。
「あたし……変かな?」
「…?」
「いや、ほら、ヴァイアランスなのに浮気がどうのとか、言ってさ」
リリアが何を言おうとしているのか、聡明なミルファはすぐに悟った。
「私も、少し前までは人間の社会にいました。リリア様とは文化が違うかも知れませんけれど、私の国でも女性は男性に貞節を貫くべきだと、教えられていました」
「…うん」
「私自身に恋愛の経験はなかったのですけれど…男女の事情は大体分かります。そこから推測すると、やっぱり、ヴァイアランスの中に『浮気』って言葉は似合わないかな、と思います」
「そうかな?」
「はい。普通なら、自分の配偶者が浮気した相手とは、和解しがたいですよね。でもヴァイアランスに性の区分はあまりありません。だから配偶者の浮気相手とも、また恋人みたいに…あるいは家族みたいに、仲良くなれると思います」
「家族……」
リリアはそう呟くと、静かに頷いて、そっとミルファの胸から腰を引いた。
「ミルファ…ルキナ様の所へ、案内してくれるかな?」
「え? あ、はい! ……承知いたしました」
ブラウスの胸元を寄せて、ミルファは心からの微笑みを見せた。