先の戦いで華々しい勝利を飾ったジェナは、陣幕の前に生えた淫樹に身をもたせかけ、ボンヤリと神殿の方を見つめていた。
やっぱり、あのヴィランデルとかいうヤツに種付けした子供が、気になるのかな。
「ジェナ!」
ファルカナは元気良くジェナの側へ駆け寄ると、思っていたことを口にした。
「…いや、そんなことはない」
素っ気ない返事(いつものことだが…)をもらい、ファルカナはつまらなそうにテントへと引き返した。
「でも…やっぱり、気にしてるみたいだったよなあ」
ファルカナでも、同じ状況になれば、気になると思う。
ザラ様の赤ちゃんをこの身に宿したり、ザラ様が自分の子を産んでくれたり、そんなことを思うと…
「ふにゃあ……えへへへへ……」
妄想しただけで、顔が緩んでしまう。だから、ジェナだってああいうキャラクターでなければ、ヴィランデルの隣でにへにへしているに違いないのだ。
これだけ毎晩交わり合うヴァイアランスの戦士達が、存外妊娠しないのは、ファルカナにも不思議だったことである。
ザラ様の話しによると、生殖力はありすぎるくらい備わっているらしい。ただ、それで年中妊娠していては、シオン=ヴァイアランス様の司る重大事……快楽の追求に支障を来すかもしれないので、シオン様が調整しているのだそうだ。
「アタシも、ザラ様の……うん、そうだ。それでもチャレンジ、さっそくもらってこよっと!」
ファルカナは早速思考を切り替えて、ザラから新鮮な子種をいただくべく、ザラの居室へと駆け出した。
ザラ勢の陣幕と一口に言っても、それはもう広い。複数のテントや天幕がくっついた形のそれは、魔力で広げた空間に建造物を内包しており、戦士達の個室、訓練場から奴隷の飼育場まで備えているのである。
ファルカナは布で仕切られた通路を駆け、陣幕の中庭に面する大理石の廊下に差し掛かった。
そこで耳に届く、二つの声。
「ダメですよ、ゼナ様……それは、デーモンスティードの食べる……」
「やーもん! ゼナもたべゆもん!」
「あああ! イレーネ先生に、ゼナぁ!」
「まあ、ファルカナ!」
「??? ママぁ、ふぁーかなってだれぇ?」
イレーネと呼ばれた貴婦人はファルカナを認めてにっこりと微笑み、ゼナと言う名の少女は緑の瞳をクリクリ動かした。
「先生、ゼナを教育するんで偉いデーモン達のトコに行ってるって聞いてたんですけど…帰ってきたんですかぁ?」
「ええ。ザラ様からご召命をいただいて……ほら、ジェナさんが、誰かを妊娠させた、って言うでしょ? だから、その面倒を見るようにって……」
「そうなんですかぁ。ですよね、先生お医者さんだし、お産してますもんね♪」
敵であるヴィランデルのためにイレーネ先生を呼ぶなんて、やっぱりザラ様は優しいや。
ファルカナはザラに惚れ直すような気持ちで、その娘……ゼナの前にしゃがみこんだ。
「ゼナぁ、もうアタシのこと忘れちゃったのかぁ? まあ、仕方ないけどねー」
「?? ふぁーかなっておっぱいおおきいね。おっぱいのませてぉー」
「そればっかなんだからなー、もう」
ファルカナは触手の髪の毛を撫でてやりながら、ゼナのおでこに口づけをした。
そう……このゼナは、信じられないようだが、ザラ様の子供なのだ。
医者のイレーネに、ザラ様が産ませた子。しかしケイオススポーン――混沌の力に耐えきれず変異した、欲望しか知らない無垢な怪物――として生まれたゼナは、ザラ様の後継者たる程の能力を持つこともできず、ファルカナ達からも呼び捨て扱い……まあ早く言えば、出来損ないみたいなものである。
しかしそれでも、可愛いものは可愛い。御曹司と言うよりはペットみたいな感じだが、とにかく中身は3、4歳の子供…可愛くないはずがない。ザラ様も、後継者でないから正式な扱いはしないものの、やはり出来の悪い子はそれなりに可愛いようだった。
「ザラ様には、これから?」
「ええ。ゼナ様もすっかり大きくなられたし、きっと驚かれるでしょうね」
魔騎馬の餌を食べたがっていたゼナを抱き上げ、かわりに自分の豊満な乳房を含ませると、イレーネは上品に笑った。
「あ、じゃあ、アタシも行きますよ! ちょうどザラ様にお会いする所だったから……」
ファルカナは二人を先導するように、勇ましく廊下を歩きだした。
――やっぱり欲しいかなあ、ザラ様の子供。
妄想していたら、ピアスが痛くなるほどちんちんが勃起してしまって、これじゃあ逆だとファルカナは苦笑した。