声ではなく…息を呑む静かなさざめきが、部屋を満たした。

 その姿をすっかり変えて、現れたカナディア。
 頭には白いメイド帽、胸元には小さな赤いリボン。逞しい腕は金属製の青いスリーブに覆われ、肉感的な太ももは白いタイツに包まれている。
 シャルレーナは、息を呑んだ胸の奥が、甘く激しく、痛むのを感じた。
 分かっている。このミュータントに対する複雑な気持ちを…灼けるような劣情が、あぶっている痛みだ。

 カナディアは口を開き、数語何か発しようと顎を動かしたが…結局何も言わずに、シャルレーナとシャルリアンに一礼した。

「こんな感じ…なんだ。どうかな、もらってあげてよ、ね?」
 部屋にカナディアを招き入れたルキナは、カナディアの腰に手を回して、屈託なく笑った。

***

 カナディアが、シャルレーナ達の奴隷を志願している……そう聞かされたのは、つい数分前だった。
 初めは驚き…一瞬、消えかけた憎しみがうずいて……すぐに嫉妬に変わった。カナディアが、姉を好いて奴隷になろうとしていることなど、すぐに分かった。
 冗談ではない。そうは思いつつも、シャルレーナは姉の顔を見た。
「お姉ちゃん……どうする……?」
 姉は、戸惑ったような顔をしたまま、言葉を返さなかった。けれどその美貌はかすかに上気して…喜びとも欲情ともつかない熱を、にじませていた。

「お前にあんな事があって…私自身も凌辱されて…一時は、あいつのことを酷く憎んだ。殺してやると、何百回も思った。だが…」
 姉は一度目を伏せて、その強い瞳でシャルレーナをまっすぐに見た。
「不思議なものでな……数え切れないほど身を重ね合わせているうちに…それほど、憎いとも思わなくなった。好きになったわけではないと思う…愛着…それとも馴れ…なんて言えばいいのか分からないが……」
「肉…ヴァイアランス様の教え…」
 シャルレーナは、姉と戦う直前にヨハンヌから言われた言葉を思い出して、小さくそれをつぶやいた。
「ああ…そういうことかも知れない。心ではなく、体の方が許してしまった…ヴァイアランス様の力で、一つになってしまった…そういう、ことかも知れない」
 姉はシャルレーナに応えて、そう言った。体が一つになることで、心まで溶け合ってしまう…そんなヴァイアランスの奇跡は、二人で一緒に経験したことだった。

「お姉ちゃんが、そう言うなら……ザラ様、ルキナ様、アイツに会わせて下さい。それから…考えます」
 二人のケイオスヒーローはうなずき、部屋の扉が開かれた。

***

「というわけで、まとめるならば、反抗的言動への処罰機能と、精液の保存が…おい、聞いているのかなのだ、レーナ!?」
「あ…う、うん」
 先ほどまでの事を思い出していたレーナは、カナディアと共に入ってきて、意気揚々と改造の説明をしていたザナタックの抗議で我に返った。
「別に…私は、そんなにそいつの体に興味なんて無いし……どうだっていいよ。性欲処理の肉便器だって…お姉ちゃんの方が、ずっといいしね」
 シャルレーナは、あえてカナディアも姉も見ないようにしながら、辛辣な言葉を選んでつぶやいた。
「ふっふっふ、そーかなのだ。では我が輩の改造の目玉、この処女ボディ化スイッチを見ても興味が湧かないと主張できるかな、なのだ!」
 ザナタックはぴょこぴょこ跳びはねながら、カナディアの右耳についた機械を操作した。
「ぁ…はあああああっ……!!」
 ずっと無言だったカナディアは、か細い声を上げ、光に包まれると……みるみる、その体を縮め始めた。

 

「ぅ…」
 シャルレーナは、思わず小さく呻いてしまった。
 背丈がせいぜい3分の2ほどになってしまったカナディア…その顔は大人の面影を残しつつも、幼い少女の美貌になってしまっている。なのにその体は、豊かなままで……呆れるほど大きな乳房はアンバランスに少女の体を飾り、ペニスも一回り縮んだものの大きなままだった。
 変身の際にショックがあるのか、涙目になったカナディアは、上目遣いにシャルレーナを見上げると、真っ赤になった顔を伏せた。
 先ほど覚えた欲情が、さらにエスカレートする。ペニスには痛いほど血が流れ込んで、シャルレーナは何とか興奮を誤魔化そうと大きく息を吸った。
 脇を見れば、姉のペニスも正直に天を指している。
「にゃーははは! 心理的には何を主張しようと、生殖器官に虚偽の主張をする能力は無いのだな! まあまあ、気に入ったことなのであろう。よく使用してやり、我が輩の天才ぶりを改めて認識するのだ」
「どうやら…ザナタックの言う通りのようですわね。相手を憎むよりは、奴隷として飼ってやり、快楽のままにヴァイアランス様の御心を知るのが、私達の作法……。思うことはあるでしょうけれども、しばらく床を共にしてみるとよろしいですわ、レーナ」
 ザラの言葉がとどめとなり、場はカナディアを奴隷として認める雰囲気になってしまった。

「ぁ…ぁのっ…俺…奴隷としては、全然ですけれど…頑張りますから、シャルレーナ様、シャルリアン様、よろしくお願いします!」
 ここに来てようやく…カナディアが搾り出すように声を発して、姉妹の前にひざまずいた。
 姉はすでに、小さくうなずいている。
 レーナも、今しもこの少女カナディアを犯してやりたい欲望に襲われながら…それでも、虚勢を張った。
「でも、いい、カナディア!? アンタは、お姉ちゃんじゃなくて、戦士である私の奴隷だからね! 私が奉仕に満足できなかったら、お姉ちゃんが抱くことも許さないし…すぐに、ザナタックに突っ返してやるから! いいわね!」
 一息に言ったシャルレーナは、いっそここでカナディアが怒りだして、話がご破算になって欲しい……そうとすら思った。
「はい。精一杯…シャルレーナ様にご満足していただけるよう、頑張ります…」
 しかしその想いに反して……カナディアは深く頭を垂れ、従属の姿勢を崩さなかった。


***


 幼いカナディアを寝台に転がし、シャルレーナは覆い被さるようにしてその肉体を睨め付けた。
 姉妹が暮らす蜜月の部屋。二人の柔らかい匂いが染み込んだベッドに、今はかつての怨敵が寝ている。
 シャルレーナの、所有物として。

「いい? 私を満足させられなかったら、それで終わり。せいぜい、頑張るのね」
 背後のソファに座る姉の視線を背中に感じながら、シャルレーナは乱暴にカナディアの胸をつかんだ。
 胸の心地よさは、かつてカナディアを捕らえ、なぶった時と変わらない。指の間から突き出した乳首の鮮やかな桃色だけが、カナディアが少女に戻っていることを教えている。
「は…い…が、がんばります。お、俺のこと…味わって…下さ…い」
 たどたどしい奴隷の言葉で答え、カナディアは幼い性器をめいいっぱい自分で拡げて見せた。
「ここは、私が変えてやった時と同じなのね」
「は、はい…スイッチを切り替える…あ、切り替えていただく度に、処女に…戻ります」
「ふーん」
 シャルレーナは己れのペニスをしごき立て、容赦なくそれをカナディアにあてがった。
 一年前には、経験した事すらなかった欲望…牡の欲望が、シャルレーナの身を髄まで震わせる。それは、ペニスの欲望……ザラ様の許で覚え、姉との交接の日々で育ちきった…狂おしい欲望だ。
 シャルレーナは、自分の顔が邪悪な笑みに歪んでいくのを感じた。
 愛らしい処女を思う様に犯し、犯し抜き、自分の精液をぶち込んで、蹂躙する楽しみ……

 寝台の脇の磨かれた柱に、自分の顔が映っていた。

 それは、一年前に涙の中で見上げた………自分を犯すカナディアの顔と、同じだった。


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