業火が荒れ狂い、浮遊する大地を焦がす。燃え落ちた土は灰に変わり、炎に飲まれ、再び地獄の焦土と凝固する。
ここは地獄。炎熱と苦痛に満ち満ちた、下層プレーンの連なる次元海。
その空にあって、迷宮の守護者<ティー=トゥー=イェン>は、静かに瞑想を続けていた。
元来武人である。戦、性、いずれにおいても守護者中最強のイェンだが、その日常は達観した武人の如く、実に静謐なものだった。
宙で座するイェンの周りだけ、そこが地獄であることを忘れてしまったかのようである。
「…………」
その守護者の瞳が、開いた。
「……来るか」
迷宮の遙か上層を見通すかのように顎を上げ、その整った唇に笑みを浮かべる。
「久しい。どれほどの腕に育ったか、とくと見せてもらおう」
かつて自ら剣を手ほどきした者の気は、イェンの記憶にあるそれより数段、大きく成長していた。
初めに気付いたのは、リュカーナだった。
柔らかな布を何重にも重ねた、快適なザラ軍の陣幕。ルキナ達との戦いに備え、戦士達が性を鍛え合うその空間で……
リュカーナはセリオスと絡み合ったまま、布の向こうに広がる神殿の中庭を凝視した。
数秒置いて、リュカーナの巨根を受け入れていたセリオスも動きを止め、同じ方向に視線を向ける。
「……気付きました、セリオスも?」
「ああ」
二人の魔剣士は同時に飛び起きた。その股間で名残惜しそうに粘液の糸が引く。二人は他の戦士達の注意を引くこともなく、静かにテントを出ていった。
リュカーナとセリオスの身を震わせているのは、魔剣が起こす独特の共鳴だった。
リュカーナのブーゲントラウムブリンゲナー、セリオスの天狼剣……かつて二人が剣を交えたときにも似た、魔剣が共鳴する唸り。それは二人の下腹に響いて、交わっていた時以上に体を昂ぶらせている。
「魔剣の使い手が、近くにいるということか…」
剣との融合が進むセリオスが、苦しげにペニスを抑えながら呻いた。
「そうですね。セリオスさんのがそんなになってるんじゃ、よっぽどの…」
「そ、そういう所で判断するな……!」
珍しく顔を赤らめたセリオスを見て、リュカーナは一瞬緊張をほどいた。
その瞬間。
総毛立つ程の殺気が、二人を襲った。
「っ!!」
セリオスが身を翻し、天狼剣を構える。
「…………」
リュカーナは動かない。いや、動けない。
殺気。鋭い太刀筋に荒れ狂う狂気の断片を滲ませた、邪剣の気。だが……この……
この、懐かしさは……
「エ…ワ……エワ姐っ!?」
「旧知の愛人に再会する……喜ばしからずや、ね……リュカーナ」
闇から現れたのは、美しき紫金の大蛇だった。