第十四 ヴィランデル=デア=ツフトヘルッシャー


「ねえっ…姉様ぁっ…もう…ひぐっ…お…お腹の袋が…裂け…ちゃうっ……!!」
 黒い石造りの建物の中には、獣の喘ぎ声と、激しく粘ついた水音が響き続けている。
「ねへ…さまぁぁぁ……も…っ…う…ゆる…ひ…ひああ……」
 愛らしい少女のような声は、切迫した絶叫から力を失い、低いすすり泣きに変わろうとしている。
「出すぞ。今度こそ孕め…」
「うあ! あ! あ! あああ!!」
 パスナパが射精の振動に合わせて痙攣し、白目を剥いて声を上げた。
 巨大な白き獣人・ヴィランデルは、妹の子宮に六度目の射精を終えると、今夜初めてその膣から性器を引き抜いた。
「うぁぁ…あ…」
「しっかり押さえておけ、パスナパ。大事な子種だ」
「はひ…」
 涙と涎まみれになった顔を俯かせて、牛の角と大きな乳房を持った獣人−−ヴィランデルの実妹−−パスナパは、肉球で膣口を押さえた。
「申し訳有りません…姉様……わ、私が、しっかりとお子をいただけないばかりに……」
 柔らかな藁の寝床に寝そべり、パスナパは涙を堪えている。
「やはり血が近すぎるのかも知れぬ。だが、貴様以外に十分な交配相手が見つからない以上、仕方あるまい。人間どもの都市を襲っても、いい腹が見つかるかどうか…」
 黒い岩の窓から、闇と燐光が混ざり合う混沌の荒野を見渡し、ヴィランデルは牙を鳴らした。

 混沌の獣人、ケイオスビーストマン。
 それは、太古の混沌大侵入の時に誕生した、忌むべき種族だ。その肉体的能力は人間を遙かに上回るが、知能は概して低く、統制も取りがたい。
 ヴィランデルは、そのケイオスビーストマンの大部族を治める覇者だった。
 生まれつき混沌の神の寵愛を受けたその肉体は、雌雄双方の性を持ち、想像を絶するほど強靱さを持つ。また知能も、他の獣人達より遙かに高い。
 当然、ヴィランデルはたちまち族長の座に登りつめた。
 敵う者など一人もいない。前の族長は、右手一本で全身の骨を引きずり出された。敵対する部族の軍勢は、ヴィランデルの体に融合した光の武器で消し飛ばされた。
 そう、ヴィランデルはあまりに強すぎたのだ。

 ゆえに問題が起きる。
 満足する交配相手がいないのである。
 ビーストマンなぞ、所詮は低能な生き物だ。雄どもは愚劣なばかりで、とても良い精子を持つとは思えない。おまけに醜い。つがう気になどならなかった。
 雌にはしばしば美しい娘が生まれるが、そうした個体は能力が低く、子を成すには不十分だ。何十匹とはべらせ交尾をするが、子宮に精を与えることはない。
 実妹パスナパ。発達した肉体も、美しさも、聡明さも、申し分ない。だがいくらその胎内に精を注ごうが、肝心の子を孕まない。

 自らの本能の求めるままに、あらゆる快楽を貪り、次々と子を成して、この世を混沌で埋め尽くさねばならぬ。
 それが、我らが崇めるラネーシア様への義務なのだ。

 最高の雌を、最高の雄を、探さねばならない。

「姉様……まだ、勃起しておられます…。よろしければ、口か胸で御奉仕を…」
 パスナパに頷き、ヴィランデルはしばし快楽に身を浸した。子種を無駄に放つのは気に障るが、ヴィランデルの精力はそれを無尽に生み出せるのだ。
 ラネーシア様の教えに従い、快楽を貪るのも悪くあるまい。
 眼を閉じ、開き、石の窓から彼方を見たヴィランデルは、その眼を細めた。
 荒野に、松明の炎が点々と連なっていた。

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