第
九 サワナ=ノーヴィス
夜
視線が体中に突き刺さる。
なめ回すような無数の視線が、この場所を飛び交っている。そしてその多くは、自分に向かっている。
野村澤菜は嫌悪感に身震いして、足早に食器を運んだ。
一歩歩くごとに、澤菜の豊かな胸が大げさに揺れ動く。このレストランのウエイトレスの中でも飛び抜けて大きな澤菜の胸は、ただでさえ胸元を強調したブラウスの中いっぱいに詰まっていて、ボタンが飛んでしまうこともしばしばだ。
そしてその胸を、メイドめいた制服を、ニヤけた客達の目線が追っている。
街ですら感じる目線が、ここでは痛いほどに鋭い。
私は、見せ物じゃない。
だったらこんなバイト、やめてしまえばいいのだとも思う。
でも…
私も、結局客と同じなんだ。
従業員用のトイレに駆け込んで、澤菜はスカートの上からでもはっきりと分かる勃起を見下ろした。
ぐっしょりと濡れたパンツを膝まで降ろし、スカートの裾を口でくわえ、両手で激しくペニスをしごき始める。
澤菜は、生まれつきの両性具有だ。中学校の時、自分が女性に欲情することに気付いた。
そして今、澤菜は仕事仲間の姿を思い浮かべながら、自慰にふけっている。
ブラウスで持ち上げられたあの張りのある胸を、思い切り揉んでみたい。そのままブラウスを開け、胸の谷間に自分のモノを挟み込んで……
スカートをまくし上げ、下着を少しずらして、あのコの中に……
「く……!」
声を押し殺したまま、澤菜は手で丸めたトイレットペーパーの中に射精した。数度震えても射精は止まらず、便器の中にポタポタと白濁した液体が垂れる。
また、こんなにしてしまった。
今夜はもう……二度目なのに。
処理を終えた澤菜は、かすかな虚脱感を振り払いながら、急いで持ち場に戻った。
見れば、もう新しい客が入っている。小走りでテーブルに向かった澤菜は、コップとメニューを置こうとして、目を丸くした。
席に座っているのは、澤菜と似たメイド服を着た美女と、鎧のようなものを身につけた少女だった。
一瞬混乱した後、思い至る。
コスプレ、とかいうものだ。
このレストランには、いわゆるオタクみたいな人種も来ているらしい。そういう人達の中には、漫画とかの登場人物の仮装をする者もいると聞いた。
しかし……それにしても……
冷たい瞳をしたメイド姿の女性は、形のいい乳房を露わにしたまま、澤菜を値踏みするように見ていた。
褐色の肌の少女は、あどけない顔立ちなのに澤菜よりはるかに大きな胸をテーブルに乗せ、ニヤニヤと笑っている。
そして……二人の股間から突き出している……あれは……
「あ、あ、あのっ、ご、ご注文がおきまりでしたらっ」
脳裏に霞がかかったような状態のまま、澤菜は何とか声を搾り出し、テーブルにメニューを並べた。
「ボク、ミルク」
「え?」
少女のコロコロとした声を聞いて、澤菜はますます戸惑った。
「あ、あの、お客様、当店では…」
「搾り立ての濃ーいミルク、飲みたいな」
少女は手を伸ばすと、今までになく固く大きく跳ね上がった、澤菜のペニスをつかんだ。
「!!!??」
そんな、何時の間に……
客の前で……店の中で……衆人の目の前で!!!
パニックを起こした澤菜は、世界のあらゆる音が遠ざかっていくように感じた。
いや。
世界は、本当に、凍り付いていた。