レディ    ス=
            オ


 この街は、地獄だ。
 退廃したラ=ブレイスの中でも、近寄る者とてない最悪の街、ジナス。
 家々は度重なる災害で崩れ、大地は湿地に沈み、貴族も、貧民も、果実も船も魂までも、何もかもが腐りきっている。
 ぬかるんだ道には虚ろな目の人間がうろつき、街路の奥からは真っ昼間から混沌神を讃える祈りが届く。
 そして、混沌の変異を浴びた化け物までが、この街の往来を堂々と行き来するのだ。
 ジナス。此処は、地獄だ。

 レディオス=ニーズは、ジナスで育った。
 母は娼婦だったが、誰の子種かは分からない。混沌の怪物が父だろうと、よく陰口を叩かれた。
 腐った街の中で、レディオスは飛び抜けて美しく、聡明に成長した。
 幼い頃はいつも夢見ていた。いつかこの街を抜け出したい。怯えずに暮らしたい。誰かに愛されたい。
 自由が、力が、愛が、欲しい。
 しかし、ラ=ブレイスの腐敗は、彼女など簡単に飲み込んでしまう。他の街に移る金もない。金を稼ぐ仕事もない。
 結局レディオスにも、母と同じ職業しか進む道がなかった。

 最初の日。レディオスは昼でも薄暗い路地に立ち、客を引くことになった。
 まだ、行為が可能かどうか怪しいくらいの歳だ。当然経験もない。
 不安に震え、涙を浮かべながら、レディオスは少しでも見かけのいい客を捜した。
 その一団は、六人全員が純白のローブを身にまとい、汚濁した路地を歩きながら裾に一片の汚れもなく、すべるように歩んでいた。
 フードに隠れて顔はよく分からない。だが、垣間見える口元には、この街で初めて見るような美しい唇があった。
 ……そもそも、男か女か分からない。しかしそれでも、この街を歩く女なら、娼婦を買うこともあるだろう。
 レディオスは仲間から教えられた口上を棒読みで口にしながら、白いローブの一団へ近づいた。
 フードを上げたその顔は、男のように、女のように、美しい。
 胸元の不思議な形の紋章が、いやに目に付いた。

「ど、どうぞ……」
 ひび割れた石壁に手を突き、薄汚れたキルトを膝まで下げて、レディオスは往来に尻を向けた。
 まだ部屋などない。ジナスで体を売るなら、これが一番早い方法なのだ。
 一人目のローブ姿が、レディオスの背後に近づいた。
 レディオスは、六人全員に買われた。懐には見たこともない量の金貨が収められている。初日に六人は辛いが、これだけの金が有れば一月以上暮らせるはずだ。
 ローブ姿の人物は、レディオスの滑らかな尻に指を這わせ、未開発の性器を舐め始めた。
 異様に長い舌だった。恥丘から肛門を上がって尻の割れ目まで舐め上げられるごとに、レディオスは未知の快感に震え、声を漏らした。
 その責めに指が加わると、思わず甘い叫び声を上げた。長く、白い、すべやかな指。女なのか。
 そう思った瞬間、灼熱した男のものが、彼女の処女を貫いた。
 痛いものだと聞いていた。なのに、なのに。
 これが、男なのか。
 快感に痺れる脳で微かにそう思うと、背中に重く豊満な双球が押しつけられた。
 違う。男でもない。女でもない。
 この人は、男と女、両方なのだ。
 荒々しく子宮を突き上げられ、繊細に性器を引き抜かれる。乱暴に乳房が揉まれ、丁寧に乳首が弄ばれる。
 レディオスは外聞もなく喘ぎ声を発した。街路を抜けて響きわたるそれを聞き、濁った視線が集まる。
 それすらも快感だった。
 異様な光景に恐れたのか、見物人も遠巻きにしている。客はそれを愉しむように、レディオスの中を味わっている。
 やがてローブの両性具有者は低く呻き、レディオスの中に大量の精を放った。
 同時に、レディオスの快楽も頂点を迎えていた。
 崩れ落ちそうになるレディオスを支え、精液を溢れさせる性器の中に、二人目が入ってきた。

 夢のような快楽。

 六人全員が終わる頃には、路地のぬかるみは白い体液に染まっていた。
 精液まみれの尻からぬぐったそれを口に運びながら、レディオスは暗い魔窟に消える一団を見送るのだった。

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