第十二 ジュヌビエーブ=エルージュ


 私って、ツイてないんです…
 ジュヌビエーブ=エルージュの口癖は、これだ。
 そしてそれは、あながち間違いでもない、と彼女は信じている。なぜなら、生まれてこの方、普通の人間なら出会うことのない不運に三つも見舞われたからだ。

 第一には、ヴァンパイアになってしまったこと。しかも相手は、女吸血鬼。
 十六歳だったジュヌビエーブは、そのお姉様に、口では言えないようなことを二百年も仕込まれたのだ。

 第二には、自分と同名の有名ヴァンパイアがいたということ。その人は、ドラッケンなんとかとゆー恐ろしい魔法使いを倒したりしたらしい。
 そのジュヌビエーブと間違えられ、人に言い寄られたり魔狩人に追い回されたり、ロクなことはなかった。

 第三にして、最大の不運は……
 混沌に、しかもラネーシアに、捕らえられてしまったこと。
 自分が有名な女吸血鬼でないということを信じてもらうのに、三日もかかった。
 多分、この桁外れに恵まれて大きな胸がなければ、一生信じてもらえなかっただろう。
 不幸中の幸い、有名な方のジュヌビエーブは華奢だったのだ。

「あのぉ……ゼブ様ぁ、起きて下さいませ……」
 そんなわけで、今朝も始まる奴隷の一日。
 ジュヌビエーブは大きなバケツを両手にぶら下げ、神殿の外郭にあるゼブジールの寝所を訪れていた。
 ミノタウロス、いわば獣の巣であるわけだから、悪臭がしてもおかしくない。しかしこの広間には床が変化したベルベットが敷き詰められ、ゼブジールの淡く快い匂いでいっぱいになっていた。
「ゼブ様……あの、じゃあ、いつも通りにしますよぉ」
 風のような寝息を立てて眠るゼブジールの正面に立ち、ジュヌビエーブはその巨大な乳房を見つめた。
 横向きになって寝ているために重なった乳房の高さは、自分の身長ほどもある。それが息づき、微妙に柔らかく揺れる様は、見ているだけで興奮してしまいそうだった。
 生唾を飲み込むと、ジュヌビエーブは獣の乳首を両手で握った。これだけ大きな乳房だ、その先端も御主人様達のペニス程はある。
「搾りますね…」
 頬を上気させ、ジュヌビエーブは一本の乳首を両手でしごいた。その途端、真っ白な乳が幾本も線を引いて、バケツの中に溜まり始める。
 ゼブジール様の乳は、彼女の御主人様達には、ことさら美味な飲み物なのだそうだ。
 それを搾るため、ジュヌビエーブは毎朝この広間を訪れている。大きな乳房相手に格闘し、バケツを運搬する……ヴァンパイアの怪力があってこそできる仕事だ。
 三十秒もしない内にバケツはいっぱいになり、ジュヌビエーブはもう片方の乳房から二つ目のバケツに乳を搾り始めた。
 それもたちまち満たされる頃……
 巨大な肉の山が、身じろぎした。
 高い天井を震わす、咆吼のようなあくびを一つ、巨大なミノタウロスが起きあがる。
「ゼ、ゼブ様! お、おはようございますぅ…」
「ン……」
 ゼブジールはしばし寝ぼけて宙を見据えていたが、やがてジュヌビエーブの存在に気付くと、その意外に美しい瞳で彼女を見た。
「ジュヌ…」
 そしてもう一度あくびをすると、柱のような五指でジュヌビエーブを鷲掴みにする。
「わあぁっ!? ゼ、ゼブ様、いやああ! わ、私は食べ物じゃありませんんんん!!!」
「ウー」
 そのまま牙の生えそろった口を開き、ジュヌビエーブの股間に近づける。
「いやああああああ! ルキナ様ぁ! 助けてええ!」
「食ベナイ。味見」
「へ?」
 ゼブジールはジュヌビエーブの股間に唇を当てると、牙で傷つけないよう繊細に顎を動かしながら、吸血鬼の豊満な体に舌を這わせ始めた。
「いっ!? あ…ゼ…ブ様……ダメ……ダメれふ…ひゃぁは…」
 ゼブジールの口に恥丘からお尻まで丸ごと含まれたジュヌビエーブは、身をよじって悶え始めた。
 大蛇のような柔らかい肉が、股間を重点的に舐め上げた後、全身を這う。薄いレオタードしか身につけていない体では、堪えようもない。
 六百年間何人もの女性に開発され尽くした体はたちまち反応し、剥き出しの下半身からは泉のように愛液が湧き出した。
 ゼブジールはその愛液を舌で絡め、美味しそうに吸い立てる。
「ゼブ様……ダ……メ……ぇ」
 目も虚ろに絶頂を迎えたジュヌビエーブの体から、さらに大量の液体が噴き出す。それを飲み干し、ゼブジールはようやく彼女を解放してくれた。

 ううう。
 朝から、全身はゼブ様の唾液まみれだ。
 おまけにあんなに強烈にイかされて、腰もフラフラだし……
 バケツは重いし……

 やっぱり私は、ツイてない。

「サワナ先輩ぃ、ただいま戻りました〜」
 給仕場に戻り、奴隷頭のサワナ先輩に頭を下げたジュヌビエーブは、また頬を赤らめた。
 だって、サワナ先輩の股間は、スカートが破れそうなくらい持ち上がっていたのだ。

NEXT