逃避行 − 試写会にて −




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「.....納得いかん.....」


眼鏡の少年がぼやく。 あれだけ『冴えない』を連発されれば無理もなかろう。


そうよ! なんでこのヲタクメガネザルはともかくアタシまで猿なのよ!」


赤毛美少女が喚く。


「と、ともかく、って.....(T^T)」

「..........よく似合ってたわ.....」


あっさりと言い放つ。
ま、 確かに、 猿のCGからアスカとケンスケに変化する合成は完璧だった。
しかし、 そのためにMAGIまで投入するのはいかがなものか(笑)。


「プ、クク...あ、綾波、それは.....っと、そ、それより、その.....あの.....
 そんなにくっつかれると.....」


狭い試写室の座席。 肘掛けもないのをいいことに、 シンジにぴったりと身を寄せて腕を絡めるレイ。


「問題ない。 責任をとって末永く可愛がってやれ」

ユイ君の孫の顔、早く見たいものだな、碇」

「.....あぁ...../-\」

「と、父さん.....。 副司令まで.....」

「シンジ様..........嫌...?」


まっすぐに、 永遠の伴侶と定めた少年の瞳を見つめる。


「あ、いや、そ、そんなこと、ない、けど.....


撮影の時の短衣を身に着けているレイである。
さすがに太刀は外してあるが、 色っぽい事この上ない。


ちょっと! その呼び方は映画の中のでしょ?!」

「.....問題ないわ。 私、もう、シンジ様だけのものだもの」


この呼び方も、 立場も、 すっかり気に入ったらしい。


キィ〜〜〜〜〜っ! それが一番納得いかないのよ! アンタなにアタシの下僕を
 誑かしてるのよ!」

「.....シンジ様は、あなたの下僕じゃないわ。 私の.....ご主人様よ」(ぽっ!)


ことさらに、しっかりとシンジの腕を抱きしめる。 弾力に富んだ、 柔らかな膨らみの感触に、 耳まで真っ赤になって鼻の下を伸ばしていると。


フンっ!


反対側から、 こめかみに痛烈な一撃。


「.....私のシンジ様になにをするの?」


護るように抱き寄せて、 身を引く。
至近距離で谷間を覗きこむ形になって、 シンジは首筋まで真っ赤に染まり。
甘い香りに、 一部膨張(笑)。


「ま、まぁまぁ、アスカはまだ出番があっただけ良かったじゃない」

「そやそや。 ワシもイインチョも、結局出番全部カットされとるやないか」

う〜〜〜〜〜.....。 なりたてホヤホヤの新米騎士ヒカリ聖帝陛下だっけ?」

「.....やめて.....その呼び方は。 顔からが出そう」

「シンジの設定もぶっ飛んでるわよねぇ。 レイが天位を受けたその日にコダマ
 聖帝から『騎士代謝が来て生き延びたら剣聖』なんて言われたとか」

「え〜と、新米の天位騎士を倒して自分が天位を取ろうとした中年騎士トキタ...
 って、そんなのいたかぁ? っと、そいつに綾波が不意打ちされて危なくなった
 時にまだ騎士にもなってないシンジがいきなり剣聖技でぶっ倒したところを見ら
 れて、だったか? で、コダマ聖帝はあんまり常識外れなシロモノ見たショックで
 退位しちまったから急遽妹のヒカリ王女が即位、って設定だったよな」

「え〜〜〜と、『マキシマム・バスター・タイフォーン』だっけ? 確か、騎士でも
 ないのにそんなもん使ったもんだから一瞬で骨と皮に痩せこけた上に全身粉砕骨折、
 って設定だったわよね」

「しかも全身火傷に筋肉断裂やろ? 死ぬで、普通」


.....技が形になる前に死ぬと思うが(^^;;;;;。


「だよなぁ。 ...で、ただでさえシンジにベタ惚れだった綾波がシンジを生涯の
 主人と決めて献身的に看病して...え〜と、1ヶ月で意識が戻った、って話で
 よかったよな?」

「その撮影のためにシンちゃんをダイエットさせようって話もあったわよね♪」

う.....。 やめてよぉ.....。 あんなの、ダイエットなんでもんじゃないよ!

「フム...。 そのシーンはまだ撮影していなかったなぁ/-\」

「い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!

「...心配しないで...。 シンジ様は、私が護るもの」


胸元に、 しっかりと抱きしめる。 少女の穏やかな心音が少年のココロを落ち着かせる.....が。 逆に一部を猛り狂わせるのはご愛嬌。


「.....碇。 高々10分以内という規定のコンクール作品に何時間分撮影したと思って
 いるんだ? そのシーンの関係まで入れるとなれば絶対に収まらないぞ」


.....収まるなら撮る気なのか? 冬月...


「そ、それにしても、さ、ワイヤー、全然見えなかったよ、ね」


必死に話を逸らそうとする。


「そうよねぇ。 猿の方はCGだから別として、アンタたち2人とも吊ってたのよねぇ」

「.....でないと.....シンジ様を抱いて、1歩10m近い歩幅で走るなんて、無理」


天位騎士が単独でなら、 例え森の中でも木を薙ぎ倒す気ならそれ以上が可能だろう。
が。 騎士でない者を生きたまま運ぶならこんなものではあるまいか?


「シンジをお姫様抱っこしてなければ走れるってぇの?」

「.....無理」


本物のレイは、騎士ではないのだ。

ところで、 この映像。 ひと齣ひと齣、 ワイヤーが存在しないかのように修正したのである。
MAGIまで動員したのは反則ではないのか?
もちろん、 ワイヤーの動きの制御もMAGIである。 紫の魔女、 恐るべし(笑)。


「ところで、ウォッカの泉って、誰の仕業だったの?」

「.....ひどい目に遭ったよなぁ(T^T)」

「あたしが申請したのはエビチュだしぃ」

「私もビールは却下したが無色の日本酒ならと裁可した。 それだけだ」


それはそれで問題ではないのか?(^^;


「う〜〜〜ん...。 シンジの衣装にマッチが入ってたのは?」

「え? 指示は入ってましたよ?」

「私は指示しておらん。 当日衣装の話はレイの短衣の丈5cmほど詰めるように指示
 しただけだ」

「それでファーストのはここまで際どいのね...っと! そうだ! ぬぁんで
 ファーストやシンジのは極上のシルクサテンなのにアタシのはだったのよ?!」

「呪いをかけられた身だぞ?」

...っく!」

「あの、総司令閣下!」

「今は『監督』と呼べ」

「も、申し訳ありません、監督どの! しかし、なぜシンジの剣はミスリル製だったの
 でしょうか? 騎士用の剣であればメトロ・テカ・クロム鋼製ではないかと愚考致し
 ますが!」

「シンジはまだ騎士になっていない設定だ。 メトロ・テカ・クロムの剣など持てば
 あまりの重さに動けなくなる。 かといって、レイに危機が迫って剣聖技を使えば、
 普通の剣など1度で使い物にならなくなる。 必然的な設定だ/-\」

「ね、ドワーフ銀って、『五星』じゃなくて『指輪』よね?」

「わ、ワシが知っとる思うか?」

「..........ごめん、鈴原。 今の、忘れて」


長編ファンタジーなど、 読んでいる筈もないトウジである。


「そういえば、今回の撮影で一番NG出したのって.....」

「アスカ、ね」

「あぁ。 呪いの解き方を説明するシーンは傲然と胸を張って高飛車に言い放つ台本
 だった筈だ」

「それで際どいところを(ピ〜〜〜)とか(ぴろろろろっ!)とか(どご〜ん!)
 とかで処理する筈だったのよね〜。 シンちゃんに流し目くれるところだってさ、
 『にや〜り』と舌なめずりしてから色っぽぉ〜〜〜くやる筈だったしぃ♪」

「いつもの調子でど〜〜〜んとやってのけると思たんやけどなぁ...」

シンジと綾波抜きでリハーサルした時なんてさ、こっちが恥ずかしくなるくらい
 堂々としてたぜ」

「それが本番じゃまるでいたいけな少女みたいに赤こなってモジモジしてばっかり
 やもんなぁ」

ちょっとアンタたち! アタシを何だと思ってるのよ!」

「でも100回もNGだぜ」

108回だ」

「そうそう! で、結局時間切れでシンちゃんがびっくりするところの前で108回目と
 1回目を繋いだのよね〜」

「その後の相田のはどうなのよ?! あれもあんな大騒ぎじゃなくて呆然と呟く筈じゃ
 なかったっけ? なんでアレが一発OKなの?!」

「.....ケンスケがああいうの見てそんな演技できると思う? 撮影は合成だけど、
 先にあの実物大模型、見てたんだよ?」

う..........な、納得.....」

「それはそうと、シンジ君」

「あ、は、はい」

「レイ、どうだった?」

「え、え! あ、そ、その.....


赤くなったり青くなったり、途端に忙しくなるシンジ。


「気に入ったか?」

...うん.....

「.....嬉しい.....」


この上なく幸せそうに、シンジに抱きつく。


「こぉ〜〜〜いぃ〜〜〜つぅ〜〜〜らぁ〜〜〜〜〜っ! あのシーン、納得いかない
 けど、シンジがファーストを押し倒してファーストがシンジに抱きついたところで
 暗転してカット入ったらそこで終わりの筈だったじゃない! なのにぬぁんで行き
 着くところまでイっちゃってるのよ! 台詞までちょっと違うじゃない!」

「僕達も止めようとした筈なのに.....」

「何故か、そのあたり、思い出そうとすると...ウグっ! あ、頭が.....」

「確か、司令から注目の指示があって...う...

マヤ! こんなところで吐いちゃ駄目よ!」


ゲドウ・フラッシュ
限りなく忌まわしいそれが放たれる時。
これまでは発令所のメンバーは全て正面かモニターを見ていたし、 冬月もその背後が定位置なのだ。

すなわち。

誰一人、生のゲドウ・フラッシュ正面から叩きつけられた者は、いなかった。

大人は、日常的に道の瘴気に晒されていた。
子供は、そもそも大人より生命力が強い。

それが、辛うじて恒久的人格崩壊を回避できた理由だろう。
.....逆に見蕩れた1人と3台は除く(笑)。


「あ、あの、父さん」

「何だ?」

「母さんの設定.....紫の巨神に封じられた、って...何だか凄く生々しい気がするん
 だけど(^^;」

「ある程度は事実が混じっている方が説得力が出る」

「碇、あの設定は生ぬるいぞ。 何故ユイ君が『智の女神』程度なんだ? ユイ君の
 器ならもっとだな...」

「あ、あの...副司令.....」

「冬月は助監督だ」


冬月は熱弁を遮られて不満そうである。


「事実の混じった設定といえば...いざこうなってみるまで全然気がつかなかった
 けど、レイちゃんがシンジ君にベタ惚れっていうのもそうだったんだなぁ」

「そうでっか? ワイがパイロットになるて決まった時もシンジのこと心配して
 見に来よったし、ミエミエやったけどなぁ」


だったらヒカリの気持ちも解れよ、と膨大な影の声。


「そういえば、こないだシンジが校庭の木陰で昼寝してたら綾波が膝枕しにいった
 のを見かけたな。 あれも.....」

ぬぁんですってぇ〜〜〜っ! ...はっ! そ、そういえば、アタシがシンクロ
 できなくなって荒れてた時にエレベーターの中で話し掛けてきたのも...」


やはり、そういうことであろう(笑)


「.....碇司令.....いえ、お義父様.....」

「む...な、何だ? レイ」

「.....約束.....」


ぽっ、と頬を赤らめる白い美少女。


「あぁ...。 心配するな。 手配済みだ」

「...ありがとう、ございます.....」

「あのシーンでシンジに初物を摘ませ、最後まで直接受け入れきった以上、お前の勝ち
 だからな」

「あの.....や、約束、って?」

「..........シンジ」

「え...? な、なに? 父さん...」

「本日をもって、レイと二人で暮らせ。 既に新居は準備してある。 私物は後から
 運べばいいだろう。 この後、カードキーと地図を渡す」

「「ぬぁんですってぇ〜〜〜〜〜っ!!!!!」」


酒精赤毛猿の、悲痛な叫びが轟きわたる。
.....家事の大半、酒精に至っては私室の外の全てをシンジに依存しきった二人である。
シンジの転居は生活の危機

『不潔よ』と叫ぼうとしたマヤとヒカリも、すっかり毒気を抜かれてしまった。


「.....無様ね。 いまだにシンジ君に頼りきっていたの?」

「あ、あははははははははは.....はぁ.....

「あ、アタシは下着くらい自分で洗ってたわよ! 自分の部屋の掃除もね」

「..........葛城3佐.....下着まで洗わせてたなんて.....不潔.....」

「ア〜〜〜ス〜〜〜カぁ〜〜〜〜〜!」

「な、なに、かな...? ヒカリ.....」

「そこまで碇君に頼りきってたなんて.....。 今日から暫くウチに泊まりなさい!
 家事一式、みっちり仕込んであげるわ!」

「.....しかし、綾波と同居じゃ、センセの苦労も変わらんわな...っと、一人減る分
 楽になるのんか?」

「あら、レイには家事全般、きっちり訓練させてあるわよ。 ミサトとは違うわ」

へ? でも、その...綾波の部屋ゆぅたら...」

「.....どうだったのかしら? 一人暮らしだと効率が悪いから自炊はしてなかった
 かもしれないけど」

「あ、いや、その...ゴミは放りっぱなしやし埃が絨毯みたいやったし...センセが
 ゴミ片付けてやっとったら赤こなって『ありがと』て...」

「何ですって?! .....あ!

「リツコさん...? どうしたんですか?」

「あ、あはははは.....。 洗濯はするように言ったけど.....掃除するようには、
 命令、するの忘れてたわ.....はぁ...

「大丈夫...。 シンジ様と一緒なら、ちゃんとやるもの...。 でも、好みだけは、
 教えて。 ...ね?


小首を傾げて、 微笑む。 凶悪なまでに、 可愛い。


フンっ! 残念だったわね! い・と・し・の・シンジ様の好物は肉料理よ!」


負け猿...もとい、 負け犬の遠吠え。 だが、 事実でもあった。


「....................私、がんばる、から」


少し蒼ざめながらも、 決然と言い切る美少女。


「あ、あの、綾波...そんなに、無理、しなくても.....」

「あ〜ら、じゃ、シンジは一生お肉を食べないつもり?」

「.....う.....」


思わず怯む美少年。


「お肉も食べられないくらいなら、ウチで料理してる方がいいんじゃないのぉ?」


赤毛猿の言葉に『うんうん』と頷いている酒精


「レイ! 偏食は駄目よ」

「あぁ。 食べられない訳ではない筈だ」

「はい...。 シンジ様の、ためなら...」

「...アスカ...。 あなた、話を逸らせようとしてるんじゃない?」

「.....う゛.....」


すっかり見透かされている赤毛猿であった。


「...家事は...私ががんばるから...シンジ様は..........ね?


とびっきりの美少女に、 とびっきりの微笑みと、 熱い視線を注がれて。
茹で蛸、 一丁上がり。


....................いいのか?!






「あ、あの...ところで、その、レイ.....」

「.....なに? シンジ様...」

「そ、その『シンジ様』って呼び方、そろそろやめない?」(汗)

「..........嫌」






P.S.

この映画、 出演女優の美しさと機材や費用の突出ぶりがあまりに不公平、 なおかつ内容がコンクールの趣旨に合わないとして受付拒否されましたとさ。

.....さもありなん。





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