高楼から鳴り響く、重々しい鐘の音。決戦を告げる四度目の鐘の音が、神殿階層の木々を揺らしていた。
魔山ヘキサデクスに深く裂けた断崖の底に、神殿はある。
断崖の中ほどに浮いた混沌の擬太陽が、中庭から頭上を見上げたシャルリアンの顔を照らしていた。
「…まぶしいな」
作り出された木もれ日が、記憶の中に残るエルフの森の光景を思い出させた。
長い日々だったように感じる。だが、まだ一年そこそこ……エルフにとっては一瞬とも言える短い時間だ。
ただ、走りぬけていた。憎悪と、怒りと、そして途方もない愛欲が身を焼く日々。それでも彼女は、自らの歩む道に誇りを持って、走り続けた。
そしてその行きつく先は…最愛の者と闘えという、神託だったのだ。
後悔はない。
心の中にあるのは、刃のように研ぎ澄まされたエルフの誇り、それだけ。
相手がシャルレーナであっても、ただ全力を尽くし、誇りに違わず、戦うだけだ。
妹に勝って、どうすると言うのだ。そんな声が脳裏に響く。
それでも、勝つしかない。戦うしかない。走り続けるしかない。
彼女には、エルフの誇りしか、残されていないのだ。
けれど……
誇りだけを突き立てた心の奥深くには、何か痛々しく、懐かしいものが埋まっているような気がする。
それが何なのか……分かってしまったら、自分の誇りが崩れ去ってしまうようで……
「シャル! ここにいたのか」
男のような言葉遣いは一瞬カナディアを思い出させた。
だが、カナディアは昨晩から体に不調を来たし、なぜか部屋から出てこなくなっている。
シャルリアンを呼び止めたのは、砂漠族の戦士・リリアであった。
「リリア様」
シャルリアンは舞闘家特有の疾風のような速度で振り返ると、礼をとった。何もリリア相手にまで戦の動きをしなくても良さそうなものだが、舞闘家の動きを体が覚えきってしまっているのだ。
「それに…パスナパ」
リリアの背後にビーストマンの美少女が寄り添っているのを見て、シャルリアンは少し驚いた。最近は身重の姉の許を離れることなど、ほとんどないというのに。
「パスナパが、お前に会いたいって言ってな。戦いの前だから邪魔になるかも知れないとは思ったんだけど…」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
「気持ちは分かるけど、あんまり緊張するなよ。自分の想いは…きっと、ヴァイアランス様に伝わるからさ」
半ばは自分のことを励ますかのように、リリアはシャルリアンの肩を叩いた。
剣士同士だからなのか、リリアとは言葉が少なくても気が合っていた。微笑み一つで同意を示すと、シャルリアンはパスナパに向き直った。
「あ、あのっ、シャルリアンさん!」
パスナパの真剣な眼差しに、シャルリアンは無言で応える。
「私…私なんかがこう言うの、失礼かも知れないんですけど……絶対、絶対に、シャルレーナさんは、シャルリアンさんのコトを嫌ってたり憎んでたりしないと、思うんです!」
唐突に妹の名を出されて、シャルリアンの胸の奥に、なぜか小さく痛みが走った。
「私、シャルレーナさんのことを全然知らないし…何があったのかも、少ししか聞いてないけど……でも、シャルリアンさんみたいなお姉さんを、キライになったりするわけないんです!」
拳を固く握り、大きすぎる胸を揺らしながら、パスナパは必死に叫んでいた。
シャルリアンの脳裏には、すぐさま、仲睦まじいヴィランデルとパスナパの姿が浮かぶ。
そうだ、パスナパほど姉を愛している妹など、世界をいくつか捜しても見つからないかも知れない。
シャルリアン姉妹の姿を自分達に重ね合わせ、自分が姉を愛するだけに、シャルリアン達のことを心配しているのだ。
「ありがとう、パスナパ」
シャルリアンは、悲しみとも喜びともつかない微笑を見せて、パスナパをかき抱いた。
「お前は……素晴らしい娘だな。ヴィランデル様がうらやましい」
「シャルリアンさん…」
逞しいエルフの体に、姉の抱擁を思い出したのか、パスナパが小さく身を震わせる。
「約束しよう。シャルレーナを傷つけたりはしない。私は、シャルレーナを……」
喉まで、言葉が出かかった。
しかしその瞬間、胸の奥にある何かが身じろぎして、誇りの刃と触れあった。
「シャル…レーナは……かけがえのない、妹だからな」
胸の中の痛みをこらえつつ、シャルリアンの口は違う言葉を吐き出していた。
***
鐘の音を耳にしたシャルレーナは、長く愛らしい耳をピクンと震わせると、立ち上がった。
逞しいペニスが無数の糸を引きながら、名残惜しそうにヨハンヌの女陰と離れる。ペニスを引き抜くことでも感じられるのか、ヨハンヌは甘い声を上げながら、もう一度射精をして見せた。
「レーナちゃん、時間ね」
「ええ。ありがとう……ちょうどよく、体が温まったわ」
シャルレーナは自分のペニスを撫でながら、ヨハンヌに礼を言った。濃い愛液にまみれ、淫臭を放つペニス。数度の射精を繰り返したそれは、みなぎる精力と、射精したことによる落ち着きの丁度良いバランスを保って、熱く脈動している。
良い感じだ。腹腔で次々と精子が生産され、粘液と混じり合っていくのが分かるような気がする。ペニスは張り裂けそうだが、ヨハンヌの中で幾度も達しただけに、そうすぐには射精しないだろう。
昨夜遅くまでカナディアの擬体を抱き続けたシャルレーナは、さすがにトルソを抱くのにも飽きて、ヨハンヌにウォームアップを依頼していたのであった。
昨日あれほど精液をまき散らしたというのに、少し眠ればペニスは完全に精力を取り戻していて、さすがに自分でも少し呆れた。
「レーナちゃんのペニス、とってもいいわね……。若木みたいに反り返って、私のおまんこの中をえぐって、かき混ぜて……フフフ。でも、私の中でこれだけ保つなんて、大したものよ」
ヨハンヌは淫靡な言葉を繰り続けながら、己れの秘裂から精液をすくい、口に運んでいた。
「最近ね…やっぱり、神託をいただいたせいか、どんどん精力が増してるの。精液を一回出す間に、二回分溜まっちゃうような感じ……ペニスもどんどん固くなって…気持ちいいんだけど、それがペニスの中で緩やかになって、射精をゆっくりにさせてるみたい」
半年ほど前には無かった器官……悪夢の象徴でしかなかった自分の男根を、シャルレーナは愛おしそうに撫でた。
今言ったことは本当だ。実際にシャルレーナの腰は、もう新たな精液で重く熱くなってきている。
「ねえ…」
ヨハンヌが自慰を始めながら、唇を吊り上げた。
「レーナちゃんは、お姉さんがキライなの?」
シャルレーナは電気に打たれたように背を伸ばすと、ヨハンヌを睨み付けた。
「…当たり前でしょう! 私を置いて……私を犯したヤツとつがいまくって……最低のメスブタだわ! 殺しはしない…けど……死んだ方がマシって目に遭わせてやる!!」
シャルレーナの美しい声が凶暴な色を帯びた。けれどヨハンヌはペニスをしごき続けながら、クスクスと忍び笑った。
「肉を甘く見てるわね、レーナちゃん」
『肉』という部分をいやに強調しながら、ヨハンヌは嘲笑した。
「私達の心なんて、結局は肉の牢獄に閉じこめられたお姫様みたいなモノ。肉には逆らえないわ。融けて…灼かれて…一つになるのよ……ヴァイアランス様の教え通りに、ね」
「何を言ってるのよ……」
ヨハンヌの言葉に言いしれぬ不安をかき立てられて、シャルレーナは後ずさった。
「じきに分かるわ。頑張ってね。思い出せばオナニーのオカズにできるくらいの試合、期待してるわよ…」
そう、もう戦いの時間だ。
アイツに……思う存分、復讐できる時間だ。
しかし、シャルレーナの股間で息づく二つの『肉』は…期待と歓喜に打ち震えるように、体液を溢れさせていた。
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