感傷なんて、ボクらしくない。
 けれどボクだって、感情のないアンデッドじゃない。たまには、胸が切なくなることだってあるんだ。
 特に、ママ達から授かったデーモンセンスのおかげで、未来に起きることを予感してしまった時なんかには。
 でも、我慢できるよ。
 ボク達はみんな、シオン=ヴァイアランスに抱かれて生きているんだ。

 頑張ってね……シャル。

 高座で目を閉じていたルキナは、眼下の広間で向かい合う姉妹に目をやって、戦いの始まりを告げる鐘を聞いた。

 ***

 対面の時は、思っていたより、静かだった。
 初めて顔を合わせた時。あの時は、ザラ様の手前もあったけれど、何より姉がそこにいるのだという現実を再認識して、怒りどころではなかった。
 代わりに怒りは、この神殿に来てからの夜毎に、増していった。
 自分がヴァイアランスの戦士達と肌を合わせている間に、姉も股を開き、よがり、悦び狂っているのかと思うと、臓腑が煮えくり返るほどの怒りを覚えた。
 だからシャルレーナは、いざ決戦の時が訪れたら、真っ先に姉の首を折ろうと飛びかかってしまうのではないか……そう思っていたのだ。

 けれど自分は、奇妙なまでに冷静に、姉と向かい合っている。
 周りを二つの陣営の戦士達に囲まれ、偉大なる二人のケイオスヒーローに見守られて。

 姉は無言でエルフの礼をとると、訓練用の木剣を構えた。
「……ふん」
 反射的に、胸の中から雑言が沸き上がった。
「一応、剣術でイニシアチブを取るつもり? どちらにしろ、私を搾り尽くさなきゃ勝利はないクセに」
 自分の表情が、嘲りに歪んでいるのが分かる。

 ……違う、そうじゃないのに。

「行くぞ」
 姉は小さく言い放つと、何の予備動作もなく、死の旋風と化した。
 舞闘家独特の、舞いと旋回を武器にした剣撃だ。ヴァイアランス神の加護があるこの場所でなければ、木剣でも命を落としかねない威力。
 しかしシャルレーナも同時に、高く舞い上がっていた。
 混沌になって得た力。戦士達から学んだ格闘術が、シャルレーナにはある。
 美しい弧を描いて着地したシャルレーナは、地面と変わらぬほどにまで体勢を低くすると、長い両脚を振るった。
 足払いだ。死の旋風も、足先までは及ばない。そう、コマと同じように。
 足を狙われたシャルリアンは木剣に回転軸を移すと、棒高跳びのように大きく跳ねて、振り向きざまに剣を振り下ろした。
 大振りすぎる。これは誘いだ。
 シャルレーナは誘いに乗るフリをして、走る。案の定、姉はバネのように身を翻し、シャルレーナを切り上げる。かわす。組み付き、絡みついた。逞しい首に、腕を回す。

 極まった。

 シャルレーナの柔軟な肉体と、ジェナ直伝の関節技が一つになり、姉妹は美しい肉のパズルと化した。
 首は極めた。剣を使う腕も封じた。さらにシャルレーナの着るケイオススーツが密着し、その技を逃れがたいものにしている。
 首を折れる。そう思った。
 ヴァイアランス神の加護で死なないまでも、治癒するまでの悶絶を味わわせられる。
 苦悶する姉を、思う存分に…
「っ!?」
 己れの熱さに驚いた。
 シャルレーナのスーツの中で、信じられないほどの量の愛液が、溢れ出し、全身に染みわたっていく。
 腰がガクガクと震えた。自分はそれほどまでに、姉を犯すことに興奮しているのか。

 けれど姉は、一瞬ゆるんだシャルレーナの四肢を見逃すわけがなかった。

 姉は不自由な右手から左手に木剣を移すと、シャルレーナの右脚を軽く、打った。
「あああああっ!!?」
 瞬間、シャルレーナの四肢に、電撃のようなショックが走った。
 腱や関節を突かれたわけでも、魔術を使われたわけでもない。あたかも打撃が染みわたるように……
「好きな場所に…とはいかないか。『極み』は遠いな」
 姉はわけの分からぬことをつぶやくと、床に倒れ込んだシャルレーナの許へ歩み寄った。
 四肢が痺れたようになって、自由がきかない。
「…強くなったな」
 姉がささやいた。
 涙が溢れ出す。敗れて、悔しいからだ。そう…そうじゃなければ、涙なんて…どうして……


 姉の引き締まった体が、シャルレーナの上に重なった。二人の胸が触れ合い、つぶれる。胸の部分にはスーツがない。剥き出しの肌に、汗ばんだ姉の肌を感じた。
「…っく……」
 それだけで、射精感がこみ上げてくる。シャルレーナは顎をそらすと、眉をしかめ、必死にそれを堪えた。
 姉は半身をずらすと、シャルレーナのスーツを器用に破り、すでに暴発寸前にまで高まったペニスを取り出した。
 指が繊細に動く。張りつめた表皮を優しくしごき、ときおり指を根本に伸ばしつつ、亀頭を指の腹で撫でる。
 巧みだ。
 こんなコトが、これほど巧くなってしまうほどに、姉は……
 ぽろぽろと、涙がこぼれた。止まらない。ぽろぽろ、ぽろぽろ、紅い絨毯の上に。

 口に含まれた。
 幼い頃から見慣れていた、艶やかな姉の唇が、自分の醜いペニスをくわえている。舌は丁寧にペニスの形をなぞり、その形状を覚え尽くそうかというほどに、何度も絡みついてくる。
 射精を迎えそうになると、責めは絶妙なタイミングで中断され、脈打つ先走りを姉は優しく飲み干してくれた。
 ただ巧いだけではないのだ。
 相手のことを……想っていなければ…ここまでは…
 ぽろぽろ、ぽろぽろと、涙は止まらない。

 姉は愛おしそうにシャルレーナのペニスを抱き、胸や腹にこすりつけながら、股間にまで運んだ。舌と指は丁寧にスーツの上を這い、その向こうにある肉体に伝えようかというほどに、舐め、さすり、愛撫している。
 じわり、と熱い愛液の感触が、シャルレーナのペニスを包んだ。
 姉は自分の秘所に妹の男根をあてがったまま、妹を見つめていた。
 何かを、自分に対して確かめているかのようだ。いいのか、と。
 姉も分かっているのだ。これ以上進んだら、二人とも、今までの二人ではなくなってしまうことを。

 けれど、シャルレーナはうなずいた。ぽろぽろぽろぽろ、涙をこぼしながら。
 姉はシャルレーナにしか見えない微笑みで、うなずくと……
 シャルレーナを、包み込んだ。

 その時、シャルレーナは理解した。
 ヨハンヌが言っていたこと。
 自分が、自分の「肉」が、望んでいたこと。
 復讐という名目を借りて、自分が欲していたことを。

「お姉ちゃん…」
 言葉と、涙と、精液と共に、何もかもが、流れ出していった。


***


 つながったまま動かなくなった姉妹を見て、戦士達はざわめき始めていた。
 けれどシャルリアンの耳は、ざわめきの意味を聞かない。
「お姉ちゃん…お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん、お姉ちゃん……」
 自分の胸に顔を押しつけ、泣きじゃくる妹の声。それだけが、シャルリアンの聞く言葉だ。
「レーナ……」
 ひどく久々に妹の愛称を呼ぶと、シャルリアンは深紅の髪を抱きしめた。
 熱い。
 自分の腹腔に撃ち出された妹の精液が、熱い。
 神殿でどれほど淫行を重ねようと、こんな感覚を覚えたことはなかった。熱い。熱さはシャルリアンの中を駆け上ると、全てを溶かしていく。
 刃を、誇りを、誓いを。そして、心の奥底にしまわれていたモノを、溶かし出していく。
「はああっ…」
 深い、溜め息のような吐息が、シャルリアンの喉から洩れた。背中を丸め、妹を上からしっかりと抱きしめたまま、腰が動き始める。
 自分の女が、歓喜に狂いながら、妹の男を味わい始めた。

「私…わ…私は……分かった……」
 シャルリアンの唇から、性交している者の声とは思えない、朗々とした声が響いた。
 戦士達がどよめいた。妹は驚いたように泣き声を詰まらせると、涙をこぼすのをやめないまま、姉の顔を見上げた。
「私は、ずっと、こうしたかったのだ。シャルレーナ、私はお前を愛していた。欲していた。欲情していたんだ!」
 貪るように腰を動かしながら、シャルリアンは叫んだ。
「私が兄だったら、でなければお前が弟だったらと、幾度も妄想していた。お前と交わりたかった。男などに興味はなかった。だから…舞闘家に身を投じて、戦人として生きようと決心したんだ」
 堰が崩れた言葉は、止まることを知らずに流れ出ていた。性器は立て続けに絶頂を迎えている。子宮に、妹の新鮮な精液がさらに流れ込んだ。快楽は脳を灼くほどに、背骨を凍らせるほどに、高まり荒れ狂っている。けれど言葉は止まらない。
「エルフの誇りなんてどうでも良かった! ただ、私は、お前を愛していることから目を背けたかったんだ! なのに私は……お前を置いて……自分を偽って……」
 シャルリアンの頬を、涙が伝った。
「すまない……レーナ……」
「私もだよ……お姉ちゃん……」
 泣き崩れ、それでも交わりを止めないシャルリアンの背中を、妹はしっかりと抱き返していた。

「ずっと……お姉ちゃんが好きだった。お姉ちゃんみたいになりたかった。お姉ちゃんに愛されたかった」
 シャルレーナは腰を浮かすと、全身のバネを使い、シャルリアンの膣を突き上げ始めた。
「私も舞闘家になりたかったんだよ。お姉ちゃんと同じに。でもお姉ちゃんは許してくれなかった。……かまって欲しかったんだ。気にして欲しかった。だから恋人を作るふりなんかして、お姉ちゃんに心配してもらおうとしたの。でも……」
 今や立て膝になって、姉を犯しながら、シャルレーナは叫ぶ。
「でも、お姉ちゃんは行っちゃった! どうでも良かったのに……私のコトなんか、復讐なんか! ただ、側にいてくれれば良かったのに……なのに、なのに!!」
「レーナ……」
 抱き合う姉妹の太ももから、混じり合った体液が幾本もの筋となって流れ落ちた。汗にまみれ、涙に包まれ、舞闘家の肌とケイオススーツは、一つに密着していく。
「…あやまってくれなくていいの……だから…だから、一緒にいて……お姉ちゃん……」
 シャルレーナはそう言うと、シャルリアンの腕の中で震え、一際熱い精を放った。


***


 その時が、来たみたいだ。
 みんなは、動かなくなったシャル達を見て、決着はどうなったのかとささやき合ってる。
 戦士達をはさんだ向こう側で、ザラだけが、静かに目を閉じていた。

「もうどこにも行くものか……レーナ」

 やっと、シャルが身を起こした。
 シャルはみんなを見下ろすシオン様の像を仰ぐと、声を張り上げた。
「ヴァイアランス神よ! 私の負けだ! 我、誇り高き森エルフの一族が一子・エクセリアス=シェルビナイト=シャル=リアンは、今日今宵から、血を分けしエクセリアス=シェルビナイト=シャル=レーナの奴隷となろう! 我に、従属のルーンを!」

 みんなが言葉の意味を理解するまで、数秒かかったみたいだった。
 最初に、ギルディアとヴェスタが怒鳴り声を上げた。「何を言い出すのだ、シャルリアン」、みたいなコトを言ったんだ。
 でもシャルは二人ではなく、ボクを見ていた。
 ボクもシャルを見る。ボクの見ているその前で、シャルの額に従属のルーンが浮かんだ。消えない証。奴隷の証。ボクからシャルレーナへ、主が移った証だ。

「おねえ……ちゃん……」
「私はもう、お前の奴隷だ。永遠に愛し……永遠に奉仕しよう…愛するレーナよ」
「お姉ちゃん……愛してるよ……」
 二人はみんなの前で口づけを交わすと、戦いの終わりを告げる鐘が鳴るまで、ずっと一つになっていた。
 そして最後に、シャルリアンは顔を上げると、ボクに話しかけた。
「すまない…ルキナ様。盟約は、今夜で終わりだ」

 感傷なんて、ボクらしくない。
 けれどボクだって、ずっと好きなコと別れる時くらい、感傷的になるんだ。
「幾夜もの…抱擁を……ありがとう」
 シャルが言う。ボクこそ、ありがとう。
 笑って送らなきゃ。
 ボク達はみんな、シオン様に抱かれて生きてるんだもの。また会える。いつでも会える。ずっと、いっしょなんだから。

「おめでとう、シャル」
 ボクは、いつもと変わらないのんきな口調で、どうにかそう言えた。

To be continued...

勝者:シャルレーナ…?

かつてない結果を迎えた混沌聖戦第四戦!
果たしてシャル姉妹を待つ運命は!?
混沌聖戦第十七話「祝福(仮題)」を待て!

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