「くやちいでちゅわ〜! ぁう、えぐう…みぃぃ〜!!」
 あらん限りの声で泣くゼナを抱き、イレーネは困り果てた表情で、ザラを見ていた。

 五つ目の聖戦を終えた、ヴァイアランス神殿。
 六つ目の戦いはすぐ後、明日を以て決着することが神託され、両陣営は静かな緊張に包まれていた。
 その中、レードルとの戦いに敗れたゼナが、ザラの寝室で幼心のくやしさを訴えているのであった。

「ザラ様…」
 こんな風にゼナが泣くというのは、初めてのことである。母親のイレーネ自身が戸惑っても、無理はあるまい。
 ザラはイレーネに近づき、二人でゼナを抱くかのように、豊満な乳房の間に幼子を収めた。

「ぐす…くすん……すん…
 二人の母親に抱かれる安心感に包まれてか、少しずつゼナの涙が収まっていく。

「気にすることはありませんわ」
 泣き疲れて眠ったゼナの額を撫でながら、ザラはイレーネに微笑んだ。
「でもザラ様、ゼナ様がこんなに泣くことなんて、初めて…」
「だから、良いのです」
 ザラは微笑みを怜悧な笑みに変えると、言葉を続けた。

「くやしいと言うのは、自らに誇りが生まれた証拠ですわ。今まで、何も知らなかったゼナが、私の真似をし、自分に誇りを持ち始めている……大きな変貌だとは思いませんこと?」
「あ…」
 イレーネはハッとしたように声を洩らし、美しい瞳をゼナに凝らした。
 ケイオススポーンとして、ザラの力を受け継がず、何時までも幼いままであるかと思われたゼナ。そのゼナの中に、聖戦を通して変化が生まれつつあるのだ。

「ゼナは、思っていたよりも良い子に育つかも知れませんわね。ますます…明日の最後の戦いで、無様な姿を見せるわけには参りませんわ」
 ザラはゼナを母の手に返すと、漆黒のマントを翻し、立ち上がった。
「ザラ様、今宵の夜伽は、どなたをお呼びいたしましょうか」
 ゼナの寝顔をしっかりと抱きしめたまま、イレーネが言う。


「レベッカを呼んでおきなさい」
 白銀のように凛とした声を残し、ザラは一人、陣幕の回廊へと歩み出ていった。


***


 柔らかな灯火の下で、神殿の奴隷長・サワナは、副官の一人ヴェスタの前にひざまづき、ゆっくりと奉仕を続けていた。
 今すぐに射精を誘う、貪るような奉仕ではない。ブラウスの前をはだけて露わにした両胸で、ヴェスタの鋼のようなペニスを包み、穏やかに圧迫して刺激を与えている。
「…サワナ…」
 小さくうめくヴェスタの先端から湧き出た透明な液を、サワナは唇で拭き取り、少しだけ胸の動きを緩めた。

 ここは神殿居住区の一画、ヴェスタの居室である。しかし今夜の主はヴェスタではない……ルキナその人だ。
 聖戦の最後の戦いは、レードルとゼナの戦いから間を置かず、明日にも行われるという。そんな大事なこの夜に……ルキナはまったく様子を変えず、いつもどおりの夜伽のローテーションで、サワナとヴェスタを指名してきたのである。
 サワナが胸で奉仕を続けているのは、ヴェスタに快楽を与えるためでなく、焦らすことでその精液を濃くしてやろうというウォーミングアップなのだ。

「もう…いい」
 ヴェスタが触手の一本をサワナの肩に巻き付け、その動きを止めさせた。
「……はい」
「これ以上は、耐えられそうにない。ウォーミングアップをするには…少し、いやらしすぎる胸だ……」
 ヴェスタに賞賛と欲情を込めて胸を触れられ、サワナは頬がカッと熱くなるのを感じた。
「…ありがとうございます、ヴェスタ様」
 神殿に来たばかりの頃のサワナなら、ここで恥じらいのあまり萎縮していたかも知れない。だが今は、羞恥心までもが体の奥の熱に火を注ぎ、サワナの中をねっとりとした欲望で満たしていく。
 サワナはベッドの端に腰掛けたヴェスタに抱きつき、互いの体を密着させることで、ひとまず自分の中の淫欲を我慢させた。

「ヴェスタ様……戦いは、どうなるのでしょうか…」
 体の中を淫欲でジリジリと焦がすように、その豊かな肢体をくねらせながら、サワナはささやいた。
 きっと神殿の誰もが、訪れる最後の戦いに不安を感じている。どれほど性の衝動に突き動かされていても、ふいと不吉な影が差し込んでくるかのように。

「レードルが勝利して…我々の二勝、ザラ勢の三勝だ。ルキナ様が勝てば、引き分けになる」
 サワナの背中をさすりながら、ヴェスタは答えた。
「引き分け…でも、引き分けだと……」
「むしろ、その方がいい。互いの面子が立って、ザラにも神殿から引き揚げてもらえる」
「もし負けたら…私達は……」
「…………」
 背中を抱くヴェスタの手に、強い力がこもった。


「ボクが負けると思う?」
 背後から響く鈴の音は、ルキナの声だった。
『ルキナ様』
 二人は同時に言ってベッドから離れると、ルキナの前にひざまづいた。
 湯浴みを終えたルキナから、石鹸と混じったルキナの肌の匂いがして、サワナは思わずスカートの中で射精しそうになるのを堪えた。

「ボクが負けたコトが、あった?」
 ルキナは自らも膝を落とすと、二人を抱き寄せ、その豊かな褐色の乳房に頬を埋めさせた。
 そのまま意識が吸い込まれていきそうなルキナの体温の中、改めてサワナは思う。


 ルキナ様が、負けることなんて、ない。


『いいえ……』
 二人はかすれた声で応えると、そのままルキナの滑らかな肌にむしゃぶりついていった。
 灼けるような欲情と快楽の中に、もはや不吉な影が差すことはなかった。


***


「ザラ…お、お願い…だ…私は…もうっ……くはぁ…
 哀願するレベッカの声が、岩の虚に響く。
 しなやかな少女の肢体、そこだけやや大ぶりな双胸に珠の汗を浮かばせ、レベッカは白い息を吐き出していた。
 充血も極まって赤黒く勃起したペニスは、根本の拘束具で射精を禁じられている。



「そう…思えば、これが始まりでしたわ……」
 レベッカのすがるような声を無視して、混沌の麗人・ザラは優雅に歩み、据えられた石柱の表面を撫でた。
「どうして…今夜に限って…こ、こんな……」
 内股になり、膝を笑わせながら、レベッカが切れ切れに問うた。言葉が途切れるたびに、濁った愛液が洞窟の地面に染み込んでいった。

 ザラ勢の陣幕からわずかに離れた洞窟は、ヴァイアランスを祀る小祠になっている。入り口から続く細い通路の奥は子宮を思わせる広間になっており、ザラが配置した石柱が円形に並んでいた。
 かつてザラとレベッカが身を置いた、古代信仰の環状列石を真似るように。
「こんな夜を、幾度となく思い描き、狂おしく悶えましたわ。それが、始まり」
 ザラはもう一度繰り返すと、しなやかな指を打ち鳴らして、レベッカの拘束具の魔力をさらに高めた。

 ザラがヴァイアランスへの信仰に身を投じたのは、地母神を信仰するドルイド教団を追放された、しばらく後だった。
 追放の原因は、同じ教団にいたレベッカへの、許されざる恋慕。
 冒涜者の烙印を押され、親友だったレベッカからもあらん限りの軽蔑の言葉を投げつけられ、ザラは一人森に放り出された。
 それから、ケイオスヒーローとして力を手に入れるまでの間、どれほど思い描いただろうか。両性具有となった自分が、同じく両性具有になったレベッカを、獣のように犯し、辱め、思う様になぶる妄想を。

 それは今、もちろん現実となっている。ザラの前で苦悶に震え、涙目で訴える、レベッカという現実。
「レベッカ…あなたの体がどんな体か、言ってごらんなさい。そうすれば、今すぐ楽にしてあげますわ」
 形の良い胸を弄びつつ、ザラは淫靡な笑みを浮かべる。
「私の…私の体は…ザラを誘惑して、混沌の道に走らせた、罪深い体…! ザラにいつも欲情していて…ザラに交尾をしてもらえなければ気が狂ってしまう、雌狼の体なんだ! だからっ…だからお願いだ、ザラ……」
 レベッカは石柱の一つに抱きつき、文字通り獣のように尻を突き出して、ザラに懇願していた。肛門に挿入された、尻尾を模した淫具が、呼吸に合わせてふるふると揺れる。
 ザラは満足げにうなずくと、張り詰めた己れのペニスを、荒々しくレベッカに突き立てた。

「ひうあああああああっ!?」
 同時に拘束具を外されたレベッカのペニスから、だらしなく精液が溢れ、すぐさま激しい噴出に変わった。
「ああ…いいですわ…レベッカ…。はぁっ…くうううう…! わ、私の、私のレベッカ……!」
 処女を失って以来、ザラのペニスを悦ばせることだけを教え込まれてきたレベッカの膣内。その使い慣れた、しかし処女の締まりを忘れない性器が、ザラのペニスにたっぷりと絡みついてくる。ザラはレベッカの内部の、襞の作りを、肉粒の一つ一つを確かめていくかのように、ゆっくりと腰を使った。

「今宵までの私は、あなたという望みを手にしていた私。そしてもう一つの望みを描いていた私…」
 レベッカに覆い被さり、ザラは徐々に交尾のペースを上げていく。
 細く締まったレベッカの腰の中で、ザラの逞しいペニスは限界近くまで反り返り、淫肉を擦り上げた。
「けれどレベッカ、明日には、そのもう一つの望みも、私のモノになりますのよ……」
「もう一つの…あぁ…あああああっ!!」

 ザラとレベッカは、同時に同じ光景を思い描いた。
 ザラが望むもう一人……ルキナを手に入れ、レベッカとルキナの二人を、存分に愛している光景を。
 明日に迫る最後の戦い。それに勝利すれば、ザラは二つ目の望み…ルキナを手に入れることができるのだ。


「ザラっ! ザラぁっ! 好きっ…もっと強くなって…! もっと支配して…! 私も…何もかも…全部ザラのモノにしてええ!!」
 絶叫し、激しく射精するレベッカの膣が、獣の顎のようにザラを喰い締めた。
 ザラのペニスはその締め付けにまったく怖じることなく、逞しく膨れ上がり、力強く収縮して、荒々しい精液を吐き出し始めた。

「そう…全て、私のものにして見せますわ……」
 レベッカの中に子種を撃ち込むリズムに震えながら、ザラは石柱に刻まれたヴァイアランスのルーンに、指を這わせた。



「シオン=ヴァイアランスの神力は…このザラ=ヒルシュと共にあるのですから」


 

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