イェンの章・5
 (syo)

 メイが動くと同時に<足の裏>は動き出し、少女に向かってきた。
 メイはなんとか覚えている拳法の型を構え、迎え撃つ姿を見せた。
「ああ、なんか敵がかわいい娘さんだったらどれだけ戦い易かっただろうかとか今、ちょっとだけ考え
たアル、我ながらふしだらな考えアル・・・・」
 独り言でどうにか恐怖を抑える。
 殴り合いが始まった。しかしその殴り合いは、イェンから見れば子供の喧嘩でしか無かった。もしも
彼女がこの場に居たら言ったであろう。
『はやくまわりの、地獄の炎を消している存在を消せ』と。
 パルボの<右脚>のもうひとつの残骸である<腿>は地獄の炎を潰して消そうとしていた。メイには
当然、それが分かってない。
「ほぉお〜あ〜あちゃっ!」メイは一撃を<足の裏>に与える。手が痛い。
 <足の裏>は少しのけぞるが、すぐに態勢を立て直し、メイの顔面を殴る。
 メイにとってその一撃は速い。
「あいっ」と気合を入れて回避を試みるが、左頬に当たり、メイは転倒する。受け身もまともに覚えて
いない彼女は後頭部を地獄の硬い大地に打ち付け、さらに痛い思いをする。
「あい〜や〜、うまく行かないものアルな〜、失敗したアルよ〜」メイは痛む頭をさすり起き上がる。
「しっか〜し、今ので見切ったアルよ、貴様はもう既に死ん、うわっ!」調子に乗って喋っている内に
<足の裏>がまたメイの顔めがけて飛んでくる。
 メイは今回の攻撃を紙一重で回避し、また調子に乗った。
 冷や汗を拭い、変なポーズをつけて叫ぶ。
「これこの通りアル、貴様の攻撃なぞちょっとびっくりしたアルけれども見切ったアル!」
 メイは走り出し、跳躍した。そして必殺の膝で<足の裏>を蹴る。
 まるで示し合わせたかの如く<足の裏>は膝の皿へ向かって来る。
 がんと音を立て、壊れ、吹き飛び、地獄の炎が有った場に落ち、メイの強敵<足の裏>はあっけなく
壊れた。
 <腿>はそれを知ってか知らずか、着地に失敗して尻を撫でているティー=トゥー=メイを、押し潰
した。
 巨大な物質の下で、息苦しさを覚えながら、メイは内臓を吐き出してしまいそうな声で呟く。
「姉上・・・・抱いてほしいアル・・・・・」
 間も無く、メイは気絶した。