セルージャの章・5
 (玄魔)


 墓石都市。
 その名の元となった墓石は一つ残らず砕かれ、今やこの都市自体が一つの墓標だった。


 かつては測り知れぬ知を表象していた石塊の山。その山脈の間を動き回る、ぬらりとした銀色の影。空に君臨する巨大な〈右手〉。

 そういった者達の目を必死に逃れ、石塊の隙間をこそこそと這っていた小さな桃色の肉片が、ふとその動きを止め、何かを見上げるように、その先端をくっと上へ向けた。


 ちぎれて風に垂れ下がる包帯は、その波動を確かに受けとめて己の主へと伝達した。


 瓦礫の底で、血まみれの巨大な右手がゆっくりと動いた。


 その唇を動かし、名を紡ぐだけの力は、三人とも既に残っていなかった。だがその心は確かに、ある一つの名を感じ取り、形作り、声を限りに呼んでいた。

(セルージャ様…………)




〈セルージャの章・6に続く〉