ルキナ&ザラの章・1
(Rebis)
「…!」
ルキナの尖った耳が、ピクリと動いた。
音を聞いたわけではない。半身にデーモンの血を引くルキナが時折感じる、感覚とも言えぬ感覚。神界からの揺らぎが、ルキナを襲った。
「ルキナ…様ぁ…」
先ほどまで、両脚の間の熱いぬかるみにルキナの舌を受け入れていたジュヌビエーブは、催促するように甘い声を上げた。
柔らかな魔力の光が寝台を照らす、奴隷部屋の一室で、ルキナは遙か遠いどこかを凝視いている。
「ごめん、ジュニ。何か…来るみたい」
「…え?」
ルキナの声にいつもと違う緊張を感じ取ったのか、ジュヌビエーブは寝台から身を起こし、主の顔を見つめた。
「ごめんね。でも、ボクがエッチを中断するってことは…よっぽどだと思って。埋め合わせは、後でするから……ね?」
胸に沸き上がる苦い緊張を堪え、ルキナは可愛い奴隷に笑顔を見せた。
そう…この時はまだ掛け値なしに、すぐにジュヌビエーブに埋め合わせをしてやれると……ルキナは思っていた。
「…」
ザラの優雅な眉が、ピクリと動いた。
しなやかな五指を左右に伸ばし、自分に振り下ろされていた木剣を音もなく止める。
「ザラ様?」
主の動きが止まったことに対して、二人の魔剣士…セリオスとリュカーナは、いぶかしげな声を上げた。
だが、ザラはそれに応えない。
訓練場に敷かれた砂の中から、焦燥が形を持って這い上がってくるような感覚に…ザラの戦人の本能が反応している。
何かが。そう、何かが…来る。
「訓練は中止しますわ。実戦の準備に入るよう、皆に伝えなさい」
「実戦……! じゃあ、ルキナ達とやるんですね!」
リュカーナは蛇体をくねらせると、期待とも戦慄ともつかぬもので瞳を輝かせて、ザラに応えた。
「戦の気配を感じましたわ。よもや、ヴァイアランスの聖戦において、ルキナさん達が武力で攻めてくるとも思えませんけれど……」
「備えるに越したことはない…ですね」
セリオスが、こちらは明らかに戦いを前にした恍惚を美貌に滲ませ、身震いしながらその牡に手を添えた。
「さあ…時間はありませんことよ!」
主の意志をくみ取り、ザラの体を包む鎧が、たちまちのうちに戦闘態勢を整えた。
結果的に、天性の戦術家ザラ=ヒルシュの取った行動は的を得ていた。問題は、敵がザラの想像を遙かに超えていたという、その一点だった。
(ルキナ&ザラの章・2へ続く)