メリン&メランの章・5
  (Rebis)   
          

「…メリ…メリン…?」


 小さな淫魔は、傾いた次幻樹の幹をかばうように抱きつき、メランに背を向けていた。
 メリンが倒れる一点を除いて、柔らかな土と絡み合う根があった場所は、無惨なクレーターと化していた。
 磨き抜かれた黒い鏡のような、クレーターの表面。パルボIQの無存在砲で、えぐられた跡だ。

「メリン…うそっ…メリンっ…!!」
 メランの胸を、かつて感じたことのない恐怖が貫いた。
「メリンっ! メリンっ!! メリンっメリンっ!!」
 メランは一飛びにメリンの許へ辿り着くと、その華奢な体を抱き上げ、必死に揺すった。


 嘘…ウソウソ…イェンだけじゃなくて…そんな……メリンまで……

「メリン! しっかりしなさいよっ…! 起きなさいっ…バカ…」

 私が…イェンが消えちゃったことに混乱して…メリンを…一人で……

「起きて…メリン……お願い……お願い……」
 戦場は揺れ続けている。
 枯れきった葉が、姉妹の肩に降り積もる。
 轟音がメランのすすり泣きを引き裂き、バリバリという音を立てて、次幻樹の幹がまた一つ、裂けた。




「ぷや…」

 自分の大きな胸に、柔らかな頬が擦りつけられる感触に、メランは目を見開いた。
「メリっ…ン…

「ん…樹…ね…、守ったのぉ」

 メリンは汚れた頬に満足げな微笑みをたっぷり浮かべると、子犬のようにメランの体操着に鼻をこすりつけた。
 そして…
 くうくうと、メランの胸元で静かな寝息が立て始める。


「バカ…もう……心配かけないでよ……」

 霊力を使い果たして眠りについた姉をしっかり抱いて、メランはぽろぽろと、涙をこぼした。

「メリン、さっきはごめん…ね」

 メランは姉の頬の汚れを指でふき取ると、一層強く、その体を抱いた。
 姉は、次幻樹を守るために力を振り絞った。

 だから、今からは、アタシが頑張る。

 次幻樹が破壊される轟音は止まらない。
 セルージャは動かない。
 イェンはもういない。

 溢れる涙は、止まらない。

 だけど、もう少しだけ…もう少しだけ、こうしていれば、戦う勇気を取り戻せると思う。立ち上がって翼を広げられると思う。


 メリンとなら、どんなことだって怖くはないと…さっき、誓ったのだから。


(セルージャの章・6へ続く)