メリン&メランの章・4
  (夜魔)   
          

 もう、ほとんどの淫魔の避難は完了した。
 セルージャと、そして最下層の地獄から救援に駆けつけたイェンがパルボを止めていてくれたおかげで……。
 セルージャの拳が、イェンの剣が。見る見るうちにパルボをうち砕いていく。
 いいえ、アタシにはそう見えていた……。為す術もなくうち倒されるエテ公。ダンジョンには、間抜けな闖入者の話題を想い出に、またいつものようなエッチに耽る毎日が戻ってくる。
 そんな幻想は、文字通り、目の前からイェンと共に消滅した。
 今まで、パルボの攻撃を簡単にあしらっていたイェンが、消えた……消えちゃった。へたり込むセルージャとアタシ達の回りに、空からヒラヒラと柔らかいイェンの羽根が降ってくる……。

 マ・サ・カ。

「負けちゃったの?」
 こんな時すら、普段と変わらないノー天気な声。
「そんなわけ無いじゃない! イェンだよ!? あのイェンが、あんな猿面に負けるわけ無いじゃない!」
 メリンが、あたしの声にビクッと身を震わせた。

「あっ……い、いいから、あっちに行ってなさい! 次幻樹のみんなの避難は全部すんだの!?」

 沸き上がる後悔を吹き払うように、アタシは更に大声を出した。弾かれたように次幻樹に向かうメリンから無理矢理に視線を外すと、アタシはきっとパルボを、そして壊れた人形のように座り込んでいるセルージャを睨み付けた。
「馬鹿セルージャ! 何やってんのよ! イェンはどうしたの? 何があったのよ!?」
 でも、セルージャはぴくりとも反応しない。
 パルボが何か言っていたみたいだけど、アタシの耳には全く入ってこなかった。パルボは、再び砲身をこちらに向けた。そこから何かが発射されたかと思うと、セルージャの体はまるで風に舞う木の葉のように、一直線に次幻樹に吹っ飛ばされた。
 次幻樹にめり込んだセルージャを呆然と見つめながら、アタシは漸くイェンがどうなったのか分かった気がした。決して認められない、認めたくない……だけど、本当のこと。
「ウソ……ウソだよっ、そんなっ……ティー=トゥー=イェンが、死んじゃうなんて……!!」
 自分の叫びが、ひどく遠く、まるで他人の声のようだった。
 パルボは、まるで何もなかったかのように、次幻樹への攻撃を再開した。アタシは、何もできすにそれを眺めて居るだけだった。こんな事が起こるはずが無い……こんな事が……。



『めらんちゃん!』



 !

 唐突に自分の半身が失われるような衝撃が、アタシの体を貫いた。そうだ、アタシはメリンを一人で次幻樹に……アタシが八つ当たりしたから!
「メリィィィィンっ!!」
 アタシは、戦えなくてもこの次幻樹の守護者なんだ。そして、それ以上に、メリンはアタシにとって大切な……。

 こんな所で立ってるだけじゃダメ。心に伝わってくるメリンの声が小さくなっていく。待ってて、メリン! 今すぐそばにいくからね。
 いつだって、どんなときだって一緒だよ。そう、メリンとなら、どんなことだって恐くないよ。どんなことにだって、二人なら大丈夫だから。

(メリン&メランの章・5へ続く)