■外伝小説 或瀬野照州武芸帖■

 筆・画 A・S・K



荒波打ち寄せる岸壁にそびええ立つ城。ここ島原城は、天主教徒達の最後の砦である。月の明かりに照らし出された天守閣、その屋根
の上には二つの人影がにらみ合っていた。正しくは美貌の若武者と、魔人である。
「ふふふ、貴様には礼を言わねばなるまいな?よくぞ忌々しき封印よりわしを解き放ってくれたわ。わしが天下を掌中に収めた暁には・
・・そうじゃのう、先ずは貴様ら、キリシタンどもから根絶やしにしてくれよう」
「くっ、でうすの使いの助けを獲るつもりが、このような外道を呼び出してしまうとは・・・!。おのれ第六天魔王!、この益田時貞、
天草四郎が神の御名において汝を封滅すッ!!」
そう叫び、若武者は異形の霊剣を上段に構えた。七つの枝を持つその刀身は、若武者の気合に応えるように霊気を発する。
「片腹痛いわ!こわっぱめ。どのような神仏にすがり付こうが、このわしを滅ぼす事など出来ぬわっ!!」
戦国の武将を思わせる装飾を施した南蛮渡来の鎧に身を包む魔人は、若武者に紅蓮の炎を吐きかけた。
「なんの!」
若武者は宙へ飛び、くるりととんぼ返りを打つとそのまま魔人へと霊剣を打ち下ろす。それを右腕で受け止め、払いのける魔人。激しく
火花を散らせて両者は再び間合いを取った。
「ふふ、楽しませてくれる。だがわしも忙しい身、そろそろ遊びも終わりじゃ」
次の瞬間、魔人の両目から赤い光がほとばしり、若武者の胸を貫いた。
「ぐぬっ?!」
魔人は残虐な笑みを浮かべると、再び火炎を吐きかけた。炎に包まれる若武者。
「お、おのれぇ・・・」
若武者は最期の力を振り絞り、手にした霊剣を魔人へと投げつけた。だが、朦朧となった意識で投げた剣は、魔人にあたる事すらかなわ
ず、荒れる島原の海へと消えていった・・・。


アルセノテリス交易社務所。ここは様々な世界、様々な時代へ偉大なる錬金術の産物を送り出す所である。
多くの錬金の技を求める声に応えるべく、今日も巫女子は注文の整理に精を出す。
「ああ〜、忙し!ちょっと桔梗はん、地球行きの分もうすぐ纏りますさかい準備しとってや〜・・・ありゃ?」
巫女子は受注書の一番下の欄にある発注者名に目を留めた。
「1637年、地球、日本、長崎、・・・益田時貞? 珍しにゃ〜、こういう時代のこんなとこからの注文」
横から覗き込む、桔梗。
「私が生れたユニバースですね・・・場所も故郷に近いです。益田時貞・・・お武家さんでしょうか?」
「注文の方法が生け贄を使う超時空間アクセスなのにゃ、使たのは・・・ニワトリ?安いもんつこてまんにゃ」
「取敢えずその件からかたずけますよ。時代も位置的にも一番遠くみたいですから」
桔梗は旅装束を準備するべく立上がり、奥の部屋へと歩いていった。
「いつの時代にもこんな趣味のお客はん、いてはるんやにゃ〜・・・良えこっちゃ」
巫女子はしみじみとしつつ、作業を進めた。やがて・・
「それでは巫女子殿、行って参ります。場所が場所だけに少々時間が掛かると思いますが、・・・」
「あれま、桔梗はん。いつもは腰に二本挿していくだけでおますのに、今日はまたえろう重装備でんな?」
普段は黒ずくめの旅装束に二本挿し、と言ういでたちで配達に行く桔梗だが、今回は篭手に脛当て、さらには鎖帷子と言ういでたちだ。
「その時代は長い戦に疲弊した人間達の隙を見て、様々な者達が闊歩していますからね。念の為ですよ」
「気ぃ付けていってや。うち、桔梗はんの裸エプロン見ながら飲む味噌汁が毎朝の楽しみやさかい、ちゃんと帰ってきてもらわんと」
「ふふ、大丈夫ですよ巫女子殿。では、行ってきます」
そう言うと、桔梗は刀を抜き目にもとまらぬ速さで五芒星を描く。空間が星の形に抜け落ちて、亜空間への入り口がぽっかりと口を開
いた。そして銭湯ののれんでもくぐるかのように、桔梗はそこへ消えていった。

時は寛永十四年、ここ長崎では封建制度の強化と宗教弾圧に対する天主教徒による反幕府勢力の決起が起きていた。
世に言う、島原の乱である。
そんな事はつゆ知らず、桔梗は心地よい夜風に吹かれながら月夜の街道を歩いていた。
やがて、松の木一本立つ辻にさしかかると、ふとその歩みを止めた。
「先刻からつけて来ている事は判っています。この私に何の用ですか?」
「ふふ、小細工は通用せぬか・・・」
辻の中央に立つ桔梗を取り囲むように、三人の忍者がまるで空気から滲み出るように姿をあらわした。
「幕軍の者ではないようだ。が、その足のはこび、ただ者ではない。さては益田の間者であろう?」
「益田時貞、又の名を天草四郎。ばてれん妖術の法を掻き集め、その術を用いて謀反を成そうとしておる事はすでに判っておる。」
「貴様の懐の物、検めさせてもらおうか?さあ!」
三人の忍者は刀を向け、桔梗に詰め寄る。
「私の懐の物がなんであれ、あなた方の言い成りになるのは当方の信用を著しく傷付けます。残念ですがご期待には添えかねますね」
「・・・口で言っても無駄か・・・」
一瞬の間を置いて、三人の忍者は一斉に手にしていた小袋を地面に叩き付けた。閃光と爆音、そして立ち上る炎。
三人はその間に絶妙の間合いを取りつつ姿を消す。火遁の術である。
桔梗はこいくちを切りつつ相手の気配を追う。吹き抜ける一陣の風。
次の瞬間、左手後方から一人が切り付けてきた。神速の居合い抜きでそれを斬り伏せる桔梗。だが、斬った筈の忍者は一抱えほどの丸太
に姿を変えていた。
「空蝉・・・!」
その隙を突き、三人の忍者は一斉に桔梗に斬り付けた。桔梗の身体を切り裂く三つの刃。
「馬鹿め!・・・ぬう?!これはッ?!」
斬った筈の桔梗の身体はしかし、すでに道端に立っていた地蔵に取って代わっていた。次の瞬間、一人の首がごとりと地面に転がる。
空蝉の術、桔梗にしてみれば意趣返しと言ったところであろうか。
「く、どこへ消えた?!」
「ここです」
「!!」
なんと、桔梗は一人の忍者の頭の上に片足で立っていた。乗られた忍者はてき面にうろたえる。即座にもう一人が跳び上がり、桔梗へと
刀を打ち下ろした。しかし刀はまるで空気でも斬るかのように桔梗の身体をすり抜る。そして勢いあまった刀は仲間の頭部を真っ二つに
断ち割った。消え去る、桔梗の幻。
「おのれっ、あやかしか?!」
半ば恐慌状態に陥った最後の一人は、微かでも音のする方へでたらめに斬りつけ始めた。
「あなたを見逃したとて、今後私の事を放っておいてくれそうも無いですね」
いつのまにか松の木によりかかり、腕組みをして取り乱す忍者を眺めていた桔梗は、咥えていた草の葉をぷっと吐き出すとゆらりと身を
起こし再び刀を抜いた。

同刻、島原城の一廓では一人の男が山積みになった大量の書物を焼き捨てていた。この者、天草四郎、すなわち益田時貞であった。
「・・・氷雨、おるか?」
一人の忍びが姿をあらわす。
「は、ここに。・・・?!四郎様、一体何をなさっておられるのです!それらの書物は幕軍の侵攻にに備え、でうすの使いを呼び出して
信徒達を救うべく・・・」
「もはや用済みじゃ。そもそも貴様の如き忍びが口を挟むような事ではない、たわけめが。」
「?!し、四郎様・・・?。ははっ、申し訳ございません・・・」
「もう一冊、魔道に関する書物が届く事になっておるようじゃ。先に出向いて使いの者を斬り、その書を焼き捨てよ。」
「はっ!御意のままに!」
(そんな・・・四郎様、一体どうなされたのですか?)
氷雨と呼ばれた忍びは、そのまま闇に溶け込んでいった。

三人の忍者との戦いからまる1日、桔梗は風に運ばれるキナ臭さに気づいていた。
「戦・・・ですか。昨日の忍び達の言うように、益田時貞殿の戦なら少々急がねばなりませんね」
と、その時行く手に人影が現れた。忍び装束に身を包み覆面をしているが、胸元の控えめな膨らみから察するに女である事が伺えた。
くのいちである。
「益田の使いの者です。注文した物を受け取りに参上しました」
が、桔梗の記憶では、益田時貞本人に手渡し代金を受け取る、と言う事になっていた。
「予定と違うようですが・・・?」
「今、わが城は戦にて、敵軍に包囲されております。使いの方にこれ以上苦労が無きよう、私が受け取りに参るよう主から申し付けられ
ました」
ふむ、なるほど。そういう事ならば、と桔梗は
「それでは合い言葉を」
と切り出した。そして少々ためらった後、意を決して言い放った。
「み、巫女子のおちちは世界一」
すると、くのいちも明らかにためらい気味に
「ぷ、・・・ぷりんぷりんのぷるん」
と返した。桔梗は、この合い言葉に関して社務所に帰ったら巫女子と少々話し合わねばなるまいと思った。たしかに、間違いの起こりに
くい合い言葉では有るが・・・
ギクシャクした気まずい空気に包まれながら、桔梗は懐に手を入れ、注文の本を取り出そうとした。と、そのとき、桔梗の視界の隅に
白刃の煌きが映った。
「!!」
驚くべき反射で桔梗は抜き放たれた刃を躱した。くのいちの不意打ちを紙一重のところで躱した桔梗は、刀に手をかけ間合いを取りつつ
さらなる攻撃に備えた。
「よく躱したな・・・だが!」
「何を・・・?」
「我が主、益田時貞の命により、おぬしを斬りその書物を焼き捨てる」
「どういうことです?!」
その問いには答えず、くのいちはさらに斬りこんできた。受ける桔梗、その時、くのいちの身体から発する薫に気がついた。男でも女で
もない性の匂い、自分と同じふたなりの匂。
二人は跳んで間合いを取った。そしてじりじりと間合いを詰めながら睨み合う。
「やるな、私の剣を二度も躱したのはおぬしが始めてだ。私の名は氷雨、おぬしは?」
「・・・桔梗」
二人は再び交差し火花を散らす。さらに激しく攻め立てる氷雨、しかし・・・
(くっ・・・強い?!)
一見、一方的に押しているように見える氷雨だが、全ての打ち込みを尽く受けられていた。手の内を全て見抜かれている、そう直感した
氷雨は覆面をはずすと、含み針を放つ。桔梗が針を刀の柄で防ぐと、その隙に氷雨は逃げの体勢に入った。だが、桔梗はぴったりと間合
いを保ったままついて来る。
「おのれ、・・・!」
堪らず懐から炸薬を取り出して火をつけた。この炸薬、ただ破裂するのではなく破裂の時に大豆程度の鉛のつぶてを周囲に撒き散らす。
しかもただ撒き散らすのではなく、ある方向に向かってのみ鉛のつぶてを放出するように細工されていた。夏の風物詩、打ち上げ花火の
飛び散る小玉の原理と同じである。現在では指向性対人地雷と呼ばれる物に近い。
とにかく、炸薬は盛大な音と煙を上げて破裂した。飛び散る鉛のつぶての死角をついて、逃れる氷雨。桔梗の姿はない。無論、そんな物
に巻き込まれる敵では無い事は判っていた、が・・・
「風下を取ったッ!!」
姿は見えなくとも、臭い、音など様々な情報を得る事が出来る風下を取る事は、忍びの戦いにおいて極めて有利であると言える。
「さあ、どう来る?桔梗・・・」
一方、桔梗は思わぬ攻撃に苦笑いをもらしていた。
「ふふ、あんな隠し玉が有るとは思いませんでしたね。では私も・・・」
そう言うと桔梗は懐から小袋を取り出した。何やら、粉末状の物に満たされているらしい。風の強さ、向きを確認しそれを宙に撒き散ら
した。
古来、中国では強烈なアレルギー反応を引き起こす物質を粉末にし、風にのせて敵陣を攻撃する兵法があった。無論、この死の風に巻か
れれば無事ではすまない。しかし今回桔梗が使用した物は、理屈こそ同じではあるが・・・。
その頃、氷雨は桔梗の位置を探るべく、耳を澄まし、匂いを嗅いでいた。やがて風の運んでくる匂いの中に桔梗の匂いと、それに紛れ
て何やら甘い薫がするのに気がついた。
「なんだ?・・・うっ!!」
次の瞬間、氷雨は自分の肉体に異変を感じた。体の芯、胸の奥や下腹部に熱い火照りを感じ始める。しまった、毒か?慌てて息を止め、
その場から逃げる為に上半身を起こしたその時、両方の乳房の先端に電撃が走った。
「うわっ?!!」
いつのまにか硬くしこって尖っていた乳首が忍び装束に擦れ、氷雨に電撃のような快楽を与えたのだ。堪らず身をよじる氷雨。すると、
今度は勃起し硬くなっていたペニスがその亀頭を袴の裏地に擦られ、同時に勃起したペニスに引っ張られて股ぐらに食い込んだ布は氷雨
の過敏になった女陰を擦り立てた。
「ぐあぁっ!!」
その場に膝を突き、悶える氷雨。自分の意志とはうらはらに、忍び装束の下で淫らに蠢く氷雨の女陰はさらなる快楽を求めて多量の粘液
を吹き始めた。
「くあ、ぁああっ!こ、こ、この・・・毒は?ああんっ・・・」
「ふふ、随分効いているようですね?私の秘薬は。強烈でしょう、私自身、耐性を獲るのに苦労しましたよ」
説明せねばなるまい。桔梗が使用したこの秘薬、霊峰ヘキサデクスにのみその花を咲かせると言う植物の、強烈な催淫効果を持つ絞り汁
をさらに濃縮し、松の実やトリカブトを混ぜ効果を何倍にも高めつつ粉末にした物である。これは、極々僅かな量を摂取するだけで犠牲
者の性感を何十倍、いや、何百倍にも敏感にする事が出来る。さらに桔梗はこれに自分の性の匂いを加えていた。通常の人間なら、一呼
吸で桔梗の性の奴隷になってしまうであろう。だが・・・
「お、おのれ・・・、んんぅ」
気丈にも氷雨は震える足で立ちあがり、桔梗へ刀を向けた。その下半身は、そそり立つペニスから零れる先走りの液と女陰から溢れ出す
粘液とで、あたかも失禁したかのように濡れぼそっていた。
桔梗は感心したように微笑みを浮かべると、おもむろに刀を抜いた。そして震える氷雨の刀を跳ね飛ばすと、一瞬の間に何度も氷雨を
斬りつけた。
「!!」
死を覚悟した氷雨であったが、しかし、どこからも血が吹き出す気配はなく、痛みも感じなかった。その代り、自分が身にまとっていた
忍び装束がまるで紙ふぶきのように細切れに宙を舞うのを見た。裸体を晒す氷雨、その野獣の如く鍛えぬかれ引き締まった肉体は、交尾
の相手を求めて血を猛り狂わせていた。
「あなたには色々聞きたい事があります。素直に話してくれればひどい事はしませんが?」
「あ・・・だ、誰が話すものか!・・・う?!」
やはりそうですか、と呟き桔梗は自分の腰の紐をするりと解くと、一気に着ている物を脱ぎ捨てた。黒衣の下から現れたその肉体は、氷
雨にとって自分以外のはじめて見る両性具有の肉体であった。
「お、おまえは・・・」
呆然と見入る氷雨の肉体は、崩れ去る寸前の理性の鎖を振りほどいて歓喜の飛沫を撒き散らした。
桔梗は自分のペニスをしごき立て、堅く勃起させると先ほどの秘薬をたっぷりと擦り付けた。そして自由に体を動かせぬ氷雨をその場
に押し倒すと、大きく開脚させた。
「ひぃっ・・・」
これからおのれの身に起こる事を想像し、弱々しく悲鳴を上げる氷雨。桔梗は目の前にそそり立つペニスを根元から先端まで一気に舐め
上げた。ぐう、という声と言うよりは空気を肺から絞り出したような声を立てると、氷雨は痙攣しながら精液を打ち上げた。
「うふふ、立派な物をお持ちです。さてこちらの方はいかがでしょうか?・・・」
そう言うと桔梗は氷雨の女陰を指で優しく押し開いた。溢れ出す官能のしるし。だがそこには、それまで淫に粘液を吹き出していた個所
とは思えぬ程、清らかで汚れを知らぬ桜色の肉があった。そしてその狭い入り口は明らかに・・・
「!、・・・きむすめだったのですか」
その言葉に恥じ入るように、氷雨は顔を背けた。氷雨の恥じらう姿に激しく欲情した桔梗は、腰を突き出し、秘薬をたっぷりと塗りつけ
た亀頭を、可憐な、しかし貪欲に快楽を飲み込もうとする女陰に擦り付けた。
「や、やめ・・・」
「安心なさい、秘薬の効果で痛みはない筈ですよ」
そう言うなり、ずぶり、と桔梗は氷雨の中に押し入った。
「ぅわあーーーっ!、あーーっ!!・・・・っ!!」
氷雨に覆い被さるようにして、淫らに、激しく身体を揺する桔梗。必死に引き離そうともがく氷雨であったが、やがておのれの女陰を出
入りする熱い肉の棒のリズムに支配され、一種の催眠状態に陥って行った。忍びの諜報活動において、このように肉体を使った情報収集
はごく当然のように行われていた。無論氷雨も忍びである以上この手の修行も積んでいたが、しかし武において絶対の自信を持ち、また
ふたなりの体を持つ氷雨は、男としての修行のみ積んでいたのである。よもや自分が「女」にされるとは思ってもいなかった氷雨は、全
く未知の責め苦に対して抗う術を知らなかった。
「さあ、私の質問に答えて下さい・・・」
桔梗は腰のリズムを崩す事無く、まるで菩薩のような慈愛を含む声で優しく問い掛けた。一方、氷雨は母親にでも抱かれているかのよう
な錯覚に陥っていた。何度も絶頂に達しながらまるで母親に悪戯を告白する子供のように、氷雨は桔梗の問いに答えていった。
「ふふ、良く分かりました・・・ふう、う、うん!」
満足の行く情報を得た桔梗は、今度は己の欲望のままに氷雨の子宮に精を注ぎ込んだ。子宮が膨らみ、膣から溢れ出すほど子種を注ぎ込
まれ一瞬我を取り戻した氷雨は己の敗北を知った。
「さあ、今度は私の”女”をお楽しみなさい。好きなように、いくらでも」
氷雨の体を抱き起こし、今度は自分が下になるように姿勢を変えた桔梗は大きく脚を開くと女陰を露出し、指でひろげてみせた。肉厚な
花弁に包まれ、使い込まれつつも鮮やかな肉の色を残す桔梗のそこは氷雨のものとは比較にならぬほど威風堂々としていた。
「うぅ・・・き、桔梗・・・!!」
すでに理性の縛鎖を焼き切られた氷雨には拒む事など、いや、桔梗の股にペニスを突き立てる事意外、何も思い付かなかった。まさに発
情した獣のように、氷雨は桔梗にのしかかった。お互いに堅く抱きしめあい、激しく腰を打ち付け合う二人。まるでそれだけが目的の機
械のように、ただひたすら「交尾」を続けた。

「気分はどうですか・・・?」
気を失うまで桔梗の膣に子種をそそぎ続けた氷雨は、今ようやく意識を取り戻していた。一体どれだけの間交わり続けていたのであろう
か?気がつけば桔梗の腕の中で口移しに水を与えられていた。
「・・・?・・・!」
事態を飲み込んだ氷雨は慌ててもがこうとしたが疲れ果てた身体はピクリともしなかった。三日三晩休みも取らずに十五人の忍びを相手
に渡り合った時も、これほどの疲労はなかった。が、一方桔梗は一汗かいてスッキリした、そんな表情で氷雨を看ている。すでに黒装束
に身を包みすぐにでも立ち去れる筈であったが、任務を果たせなかった氷雨が責任を取って自害するのを思いとどまらせるために意識の
回復を待っていたのである。
「わ・・・たしは・・・」
「今は静かに・・・私の話をお聞きなさい・・・」
可能な限り氷雨の心を乱さぬよう、優しく囁きかける桔梗。
「あなたに聞かせて頂いた話、益田時貞殿が、全てをかけていた筈の策を昨日急に取り止めた事、私と本の抹殺を命じられた事、さらに
時貞殿の人格の変貌。・・・あなたがどれほど時貞殿を慕っていたか、私には良く分かります。ですから、なおの事落ち着いて私の話を
お聞きなさい。」
「おそらく、あなたに私の抹殺指令を出したその益田時貞は、あなたの知る本当の益田時貞殿ではありません。その豹変ぶり、私には心
当たりがあります」
そんなことがあるものか?いやしかし・・・氷雨は益田四郎時貞の人格の突然の豹変を思い起こし、桔梗の話に耳を傾ける事にした。
「そんなことが・・・、四郎様は?・・・」
「今はなんとも言えません。時貞殿の安否も加え、私が様子を見てきます。」
「私も、いや私が行かねばならない・・・」
「いえ、あなたはまだ無理。先ほど、あなたは私の子宮にほとんどの子種と精力を注ぎ込んでしまいました。あなたの物があまりに良い
具合だったので、私もチョット無茶をして楽しんでしまいましたから。」
「え・・・?」
さっきまでの恥態を思い出した氷雨は、再び自分の股に熱い血が集まってくるのを感じて赤面した。
「それではそこでしばらく休んでおいでなさい。すぐに戻ってきます。」
そう言うと、桔梗は風のように去っていった。

しばらく走り続けた桔梗は、島原城を一望する小高い丘へと辿り着いた。すでに幕軍に包囲されていた島原城であったが、それよりも
その天守閣より発せられる禍禍しい気が桔梗の気を引いた。
「その気配、またしてもあなたですね・・・」
そう呟くと、桔梗は城へと急いだ。
幕軍の包囲をいともたやすく潜り抜け、場内へ侵入した桔梗はその凄惨な有り様に戦慄した。立てこもっていた筈の天主教徒達は、ほ
ぼ全員が無残に引き裂かれ、血を飲み干されてうち捨てられていた。そして辺りには、天に召される事無く城に呪縛された霊魂達が苦痛
と悲しみを訴えて泣き叫んでいた。
(外道め、許さん・・・!)
桔梗は城の中を一直線に天守閣へ向かった。そこは月の明かりのさし込む、人が二人立ち会うには少々狭い部屋であった。そしてその中
央には美貌の若武者が一人、酒を飲んでいた。
「また飲んでいるのですか。出雲や京都のでの事、懲りていないんでしょうね」
桔梗は皮肉を込めて言い放った。
「本能寺以来ですか」
「きさまは・・・。ふん、本能寺では復活間際の無防備を襲われた・・・」
その美貌から発せられたものとはとても思えぬ低い声は、明らかに現し世のものでない不浄な響きを含んでいた。
「またしても邪魔をしに現れおったか、暗黒の破壊神の血族よ。だが今度は武士や陰陽師の助っ人もおらぬ様じゃのう、大禍津・・・」
「今は、桔梗と名乗っています」
言葉を遮る桔梗。
「今回は偶然ですよ、それに本来なら私一人で十分。運が無かったですね」
「それはどうかな?」
そう言うなり、天草四郎になりすました魔人は立ち上がりざまに紅蓮の炎を吐き出した。すんでの所で躱す桔梗。次の瞬間、天守閣の屋
根が燃えて灰燼に帰した。
「益田時貞殿をどうしたのですか?!」
「ふん、言わずと知れておろうが!!焼き殺して頭から飲み込んでやったわ!魂なら未だ消え去らずに我が胃の腑でもがいておるぞ」
「おのれ邪龍めッ!!」
恐るべき素早さで抜き付ける桔梗、わずかに身を引き躱す魔人。だが桔梗は常識では考えられぬ切り返しで魔人の下腹から胸までを一気
に斬り上げた。
「!!」
しかし、魔人の身体を切り裂いた筈の剣は、その体を覆う強固な鱗に阻まれていた。

一方その頃島原城を包囲していた幕軍は、天守閣に起きた異常に色めき立っていた。
「仲間割れか、何でも良いわ。今が討ち入る時ぞ!!大砲、放て!一気に攻め落とせ!」
幕軍の侵攻が始まったのであった。

「くくく、効かぬなぁ。城に立て篭もる武士、農民どもすべての血肉がわしをほぼ完全に復活させたのだ。いくら貴様といえど、神の域
まで昇華した神剣でも使わぬ限り、わしに傷一つつける事も出来ぬ!」
魔人は桔梗めがけて赤い光をその両眼から放った。
「くっ」
逃れる桔梗、それを追う様に光りは四方の壁をすべてなぎ払った。
「ふはははは、ちょこまかと逃げ回りおって」
「はん、風通しが良くなりました、こっちもやり易くなったというものです」
今度こそ斬捨てる!刀に気を込めて必殺の機会を探る桔梗。が、その時・・・!
「ぐは!!」
突如桔梗の脇腹に痛烈な打撃が加わった。激しくぶれる視界、呼吸が詰まり、のけぞる桔梗。
「・・・な、なに?」
それは、不幸にして偶然桔梗を直撃した、幕軍の放った大砲の砲丸であった。黒装束はちぎれ、鎖帷子は飛び散った。流石の混沌の加護
を持つ桔梗であっても不意をつかれた今の強打には踏みとどまるのが精一杯であった。それを見逃す魔人ではなかった・・・。
「滅びよ!」
魔人の放った赤い光は桔梗の胸を捉え、吹き飛ばされた桔梗はそのまま荒れ狂う島原の海へと吸い込まれていった。
「勝ったぞ・・・くくく、これでわしの邪魔をするものはいなくなった!!ははははははははーっ」
「まずはこのうるさいハエどもから始末してやろう」
そう言うと魔人は迫り来る幕軍へと視線を投げかけた。

少々時を戻そう。やがて動けるまでに回復した氷雨は、桔梗の後を追っていた。主、天草四郎の安否も気になったが、今はなぜか桔梗
の事が気になって仕方が無かった。
「私は、あの者に敗れ、任務すら全うできなかったのに・・・」
無性に桔梗に会いたかった。会ってもう一度勝負を・・・?いや違う。自分と同じ身体を持つあの者に、主、天草四郎に対する思いと同
じ物を感じていたのだ。桔梗が恋しかった。
城を一望できる丘へ辿り着いた時、天守閣に異変が起きた。炎に包まれ、次の瞬間破裂するように天守閣が吹き飛んだのである。
「な、なに事?」
氷雨は忍びの超人的な視力を持って、その後起きた天守閣での戦いの一部始終を目撃した。海へ落ちていく桔梗。
「桔梗!」

天草四郎と幕軍の戦いは熾烈を極めていた。あらゆる武器が、種子島やおおづつさえも通用せぬ魔人に、幕軍は絶望的な突撃を繰り返
した。
「はははは、いいぞ、抗うがよい。苦しめ、死の恐怖に慄くがよい。貴様らの苦痛がわしの糧となるのだ!」
「ひ、引けっ!勝ち目が無い!」
総崩れになり、散り散りに逃げていく幕軍へ、魔人は容赦なく火炎と赤い光線を浴びせ掛けた。まさに、地獄絵図画の再現であった。

桔梗は、自分の体を摩擦する何やら柔らかいものの感触で意識を取り戻した。
「桔梗、良かった。意識が戻ったのか」
気がつけば島原城を見上げる岸壁で、裸になって氷雨に抱かれていた。
「氷雨・・・」
氷雨は海中へと落下した桔梗を探し出し、自らの体温で冷え切っていた桔梗の身体を暖めていたのだ。火を使わなかったのは、無論発見
される事を避ける為でもあろうが、氷雨にしてみればそれ以上の意味も有ったのであろう。
「その名とは裏腹に、あなたはとても暖かい」
そう言うと桔梗は氷雨の頬を優しく撫でた。そしてある事に気がついて自分の胸元に目をやった。そう言えば魔人の光線による傷はどう
なっているだろうか?状況的には大穴でも開いていておかしくはなかった。・・・しかし胸には穴どころか火傷一つ出来ていない。
「これのおかげで助かったのだろう・・・」
そう言うと氷雨は、焼けて穴の空いた風呂敷包みを桔梗に手渡した。それは、益田時貞宛てに運んできた書物であった。
「これが・・・。そうですか」
桔梗の使っていた風呂敷自体、魔術の力によってその強度が増していたという事も有ったが、書物に込められていた筆者の情念と、表装
に施されていた呪的鏡面処理加工によって魔人の光線は防がれていたのである。
「本が焦げてしまいました・・・。これはどうあっても代金を頂かねばなりませんね」
「主は、天草四郎の安否は・・・?」
弱々しく問い掛ける氷雨。ある程度覚悟は出来ているようであったが、桔梗は言葉を詰まらせた。
「益田、時貞殿は・・・。すでに・・・」
「やはり・・・」
「私が仇を討ちましょう。そもそも奴は私の敵でもあります」
今にも泣き崩れようかという自分を奮い立たせるように、氷雨は一振の剣を桔梗に差し出した。
「これは、おぬしのすぐ傍に沈んでいた、我が主天草四郎の愛刀だ。使ってくれ」
「?・・・この七枝剣は。て、テンソウウン!こんな所に。これならば・・・奴を討ち滅ぼす事が出来るでしょう」
剣は、亡き益田時貞、天草四郎の念を帯び炎の如く煌いていた。
「四郎様の仇を・・・たのむ」
「必ず・・・!」
そうとだけ言うと、桔梗は城を目指して岸壁をよじ登っていった。

一方、魔人は殺戮の余韻に浸り、一人累々たる屍の山に立っていた。
「至福の至とはこの事か・・・。血が薫る、亡者どもの泣き叫ぶ声が真に甘美じゃ・・・」
「悪趣味ですね」
いきなり背後から吐き捨てるように掛ったその声は、霊剣を携えた桔梗のものであった。
「・・・生きておったか、しぶとい奴よ。ぬ、その剣は。しかし、わしの鎧を貫く事は出来ぬぞ」
「人間が使っていては、ですけれど。試してみましょうか」
言うなり、桔梗は魔人に斬り付けた。その霊剣の力も相俟って、桔梗の神速の打ち込みは魔人に躱す暇すら与えなかった。
「!!」
だが、次の瞬間桔梗の刃は途方もない力で押え込まれた。まるで巨大な岩でも斬り込んで刃が抜けなくなったかのようだった。
皮一枚斬り込まれたところで、魔人は両の掌を用いて桔梗の刃を受け止めたのである。俗に、真剣白刃取りと呼ばれる技である。
「ぬぅ・・・恐るべき剣、恐るべき技量!流石は破壊神の血族よ。ふふふ・・・」
ぎりり、とそのままの姿勢で押し合う二人。さらに桔梗が力を込めた瞬間、魔人はその豪腕から繰り出される怪力で、受け止めていた剣
ごと桔梗を上へと放り上げた。
「!!、しまった・・・」
「これで終いじゃッ!!」
空中で体勢を立て直す桔梗へ向けて、魔人は赤い光線を放つ。
「なんの!」
桔梗は霊剣で受け止める。飛び散り流される光線。次の瞬間、桔梗は裂帛の気合と共に、何もない空中を蹴って魔人へ斬り込んだ。
「だあぁぁぁぁッッ!!!」
忍びの技には、道具を用いずに水面に立つ、というものがある。所謂、「水蜘蛛」と呼ばれる技である。後に履き物に細工をした道具を
用いるようになり比較的簡単に水面に立つ事が出来るようになった。が、本来の水蜘蛛は恐るべき集中力と気を用いてあたかも地面のよ
うに水面を固定し立つ技である。絶対の精神力を必要とし、さらに水面が乱れていてはただ立つ事すらおぼつかぬこの高難度の技を、桔
梗は何も無い空中でやってのけたのである。
「なんと?!」
光線を放ったばかりの魔人は、この桔梗の突然の反撃に対して反応する事が出来ずにいた。左肩へ打込まれる剣をただ見ているしかなか
った。
「ばかなっ、またしてもわしは・・・?!おおおおおぁぁぁぁ・・・」
真っ二つに断ち割られた魔人の体は、その切り口からまるで霧のように霞み消えていく。
桔梗の振り下ろした剣は、そのまま地面を断ち割り城の基礎までをも切り裂いた。岸壁の上に立つ城は、まるで崩れ落ちる氷山のように
島原の海へと飲み込まれていった。
「か、勝った・・・」
勝利を実感し、手足から力が抜けた桔梗はその場にへたり込んだ。そこへ、氷雨が駆け寄ってきた。
「桔梗・・・」
「氷雨、仇は討ちました・・・」
二人はしばし無言で向き合っていた。東の空が白み始めた頃、おもむろに桔梗が口を開いた。
「奴め、もうしばらくは復活できないでしょう。・・・私も、そろそろ戻らなければ・・・。あなたは、どうなさいますか?その、もし
よろしければ私と・・・来ませんか」
その言葉に氷雨はその貌を輝かせたがそれも束の間、悲しみと堅い決意を秘めた表情で微笑みかけた。
「有り難う、でも私は主の後を追わねば。家臣の勤めであるゆえ・・・」
「・・・そうですか。止めても無駄なのですね」
朝焼けの空からは、幾筋もの黄金に輝く光が射していた。魔人の呪縛から解き放たれ、天に召される天主教徒達の魂であった。桔梗は、
信じるものに殉じた魂達を素直に美しいと感じた。
その時、二人に語り掛ける霊が現れた。益田時貞その人であった。
「桔梗殿、よくぞこの世を、そして我らの魂を救って下さいました。この天草四郎、皆に代って厚く、厚く御礼申し上げます。・・・氷
雨、そなたは生きなさい。桔梗殿の申し出をお受けしなさい。幸せに暮らして、それが私の願いでもあります」
「四郎様・・・」
「益田殿・・・」
天草四郎の霊は、ゆっくりと天を仰ぐと差し込む光の中を昇っていった。

二日後、桔梗と氷雨は水戸までやってきていた。ここには社務所へと繋がる桔梗が開けた次元の穴がある。長崎から水戸まで、わずか
二日しか掛らなかったのは、ひとえに忍びの超人的な能力の成せる技といえよう。
「あの、桔梗・・・。」
「なんですか?」
「四郎様が注文した書物、いかなる事柄が記されているのか、見せてもらっても良いかな?」
「良いですよ、どうぞ」
桔梗が差し出した本を手に取り開いてみる氷雨、中は図版が大部分を占めている。
「その回は・・・私たちの日常などが記されているのです」
「え?あ、こ、こんな事してる・・・すごい」
見る見るうちに赤面し、股間の物を膨張させる氷雨。四郎様は内容を知っていて・・・?
「日常・・・?」
「ええ、素敵な所ですよ、私がお世話になってる巫女子殿も良い方ですし」
これから自分を待ち受ける生活を思い、胸ときめかせる氷雨であった。


さて、益田時貞、天草四郎が本の内容を知っていて注文したのかどうかは今となっては確かめる術も無い。が、この本を発注した事が
この二人を引き合わせる事となったのは果たして単なる偶然であったろうか?それとも混沌の神の導きか・・・?
もう一つ。桔梗に滅ぼされた魔人は、後の世幾度と無く復活し民を苦しめる事になる。が、それはまた別の話。
機会があれば次の講釈で・・・

おわり
*このストーリーはフィクションであり、登場する全ての登場人物、団体、物は、実在していたものとは全く関係ありません。


■ 物語の後日…桔梗との就寝中、水戸藩の刺客に夜襲される氷雨…というイラストをいただきました ■

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