CHAOS JYHAD 第十六話 復讐の刻


 地獄。
 それは、灼熱に浮かび、赤と黒に塗りつぶされた、下層プレーンの総称だ。
 魔山ヘキサデクスの地底に広がるこの迷宮は、その最下層で地獄と繋がっている。
 地獄を守護する中華悪魔ティー=トゥー=イェンは、この日一人の客人を迎え、日頃住居とする小屋の前で向かい合っていた。

 木剣が曲刀を弾き、刀は激しく回転して地獄の黒岩に突き刺さった。
「違う、そうではない。斬ろうと思うな。打とうと念ずるな。まずは、刃が望むままに動くのだ」
 イェンは木剣を一振りして炎に変えると、それを足下の深淵に投げ捨てて、小屋の扉を開いた。
「少し休もう。お主は気が濃い、地獄は辛かろう」
「…分かった」
 荒い息をついていた客人は、岩に突き刺さった刀を引きぬくと、イェンに続いてほの暗い小屋に入った。
「上達したな」
 茶を差し出しながら、イェンは微笑む。
「そうだろうか」
 それを受け取り、客人--エルフの剣士シャルリアンは、一息に飲み干した。
「筋はいい。元々、定命の者を相手にするなら十分な腕だ。無極は遠いが…そうだな、あと千歳も修練を重ねれば、私と同じくらいのことはできるだろう」
 目を細めたイェンへ、シャルリアンは無言で首肯した。

 イェンの許へ、突然エルフの舞闘家が現れたのは、三月ほども前であった。
 彼女の国独特の礼を取ると、シャルリアンは簡潔に、稽古をつけて欲しいと言った。その瞳に、武人らしい信念と誇りを読み取ったイェンは、細かい事情を尋ねることもなく、稽古をつけることを承諾したのである。
 シャルリアンの上達はめざましかった。
 イェンの使う無極の打撃にこそまだ及ばぬものの、肉体を持つ者の剣としてはかなりの域に達している。
 そしてそれは…もう一つの修練においても。

 どちらともなく、無言のうちに、二人は寝台の上にいた。
 シャルリアンが四肢をつき、その豊かな尻を突き出す。
 稽古の後で汗ばんだ尻の奥は、汗よりも濃い体液で、すでに濡れきっていた。
 イェンの好みに合った良い尻だ。内部に強靱な筋肉を秘めたそれは、しかし決して柔らかな脂肪の衣をまとうことをやめず、揉めば弾むような弾力を返してくる。肌も他の部分と変わらぬ滑らかさを持ち、一筋の傷跡が、指先を楽しませた。
「ふ…くぅ…っ…」
 イェンの舌がそろそろと股間を這うと、シャルリアンは低く息を吐き出した。
 膣口に差し込んだ舌の先端が、噛みつかれでもしたかのように、キュッと締め付けられる。舌を出し入れすると、エルフの膣は性器に奉仕するかのように収縮を続けた。
 指を肛門に差し入れた。性交用に訓練され尽くしたその部分は、潤滑液なしでも滑らかに指を飲み込み、引き絞るように締め付けてくる。
 イェンにとっては珍しい、焼けるような欲情が、腰から胸まで昇ってきていた。
「ただ締め付けるだけではない……柔らかさと潤沢さを失わず、緩急を交えて絡みついてくる。よくここまで鍛え上げたな」
 武術の時とは違う…心からの賞賛を込めて、イェンは呟いた。
 愛液の糸を引く中華悪魔の唇を振り返りながら、シャルリアンはうっすらと微笑んだ。
「…倒さねばならない相手が、いるからな。私は女だ、武器はこれしかない」
 シャルリアンは尖った髪をかき上げると、頬を枕に押しつけ、己れの秘所と肛門を指で大きく開いた。
「さあ…イェン殿、どちらからでもいい。稽古をつけてくれ」
 イェンは小さくうなずくと、陽根の先端に貼られた呪符をはがし、シャルリアンの肛門へとあてがった。
 封印を解かれた剛根は、先走りの粘液を溢れ出させた。その様は常人の射精を上回る勢いで…シャルリアンの桃色の肉は、たちまち半透明の白濁で汚されていった。
「参るぞ」
 短く言うと、イェンはシャルリアンの両胸に掌を回し、一気に腰を突き入れた。



 不覚にも精を漏らしてしまったのは…たった、五突き目だった。
 柔肉でしごき上げられ、イェンのペニスは悪魔独特の熱すぎる精液を噴出させた。シャルリアンは眉をしかめながらも、その熱さが快感となるのか、腰と尻を肉食魚のように振りたくり、食いつかせてくる。精を放出する心地よさが前回の密会の時を遙かに上回っていて、イェンは内心うなった。
「ど、どうだ…イェン殿、私の…お、女は……」
 どこか誇らしげに、しかし快感に遠慮なく溺れるように、シャルリアンがイェンに振り返った。
「た、大した…ものだ。以前教えた房中の技を……よ、よもやここまで…極め…んんっ!
 言葉で賞賛するより早く、イェンのペニスは精液をまき散らすという形で、シャルリアンを賞賛し始めた。

 結局、シャルリアンが帰ったのは、夜も明けようかという時間だった。
 シャルリアンの身を案じるイェンは、仙術で一時間の仮眠を数倍の休息に変えてやった。

「道季長久、武草烈々…しかし異界の烈士よ、真に己れを託すもの、決して誤るでないぞ……」
 上層への魔導エレベーターに向かう舞闘家の背を見つめながら、イェンはつぶやいた。

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