「オーク!? 私に、オークを抱けと言いますの…!?」
「みゅ……で、ですから、それはそのですなのだ……」
 ザラの鋭利な視線が肌をなぞり、ザナタックは思わず身震いした。
 基本的に怖いモノ知らずのザナタックではあるが、ザラだけは別格である。その高貴さ、気高さから生まれる恐ろしさは、重々承知している。だからこそ、皮膚の表面をメスでなぞられていくような恐怖が、ザナタックを通り過ぎていったのである。
「……まあ、ザナタックがそう言うからには、単なるオークとも思えませんけど……」
「……ふう」
 自分に突き刺さる視線が、いつもの優雅なものに戻り、ザナタックは息をついた。

 常に快い香りに満ちた、ザラの寝室である。寝室と言っても広大で、ザラが一糸まとわぬ姿で横たわる寝台も、丘巨人が悠々と寝そべることができそうなサイズだ。
 新たに生まれた自信作・ラーガシュの検査を終え、ザナタックはザラへの謁見を済ますためにここへ来ていた。
「ラーガシュは、我が輩の長年に渡るグリーンスキン改良研究の究極の成果、それはもーオークなどとは信じられないほどの、生物学的造形美と優秀さに満ちあふれた存在なのだ。きっとザラ様も気に入られますのだ」
「ふむ……」
 ザラはグラスに注がれたデーモンワインを一口含み、白い喉を優美に動かすと、ザナタックに視線を戻した。
「まあ、考えてみればラディアンスもドラゴンオーガ、あなたザナタックもケイオスドワーフであるわけですし……種族の偏見で判断するのは愚かしいことかも知れませんわね。いいですわ、そのラーガシュとやらを連れてきなさい」
 ザラは艶然と微笑むと、そそり立つペニスを隠すこともなく、ゆっくりと撫でた。

***

「ザナタック様……私は、オーク……なのですか…?」
「みゅ?」
 寝室の入り口で、ギルメイレンと共に待たされていたラーガシュは、震える声でザナタックに尋ねた。
 オーク。言うまでもなく、豚と類人猿をかけ合わせたような凶暴な亜人間のことである。見たことはなくても、ラーガシュにはその知識がある。
 胸は激しく脈打ち、途方もない不安と恐れが、ラーガシュの体をかきむしっていた。
 自分がそんな生き物だなんて……一体……どうすればいいのだ?
「ふむ、聞こえていたのか。まあいずれは分かることであるし、別に今解説しても構わないのだな。そう、お前は我が輩が品種改良した新種のグリーンスキン…オークなのだ」
 ザナタックがラーガシュに近づき、豊かな胸に指を押し当てた。

「フム。つまりお前は、全ての次元の中で最も美しいオーク……まあ、そんなところなのだな。見ろ、この美しい皮膚組織……弾力に富んだ授乳器官……」
「は、はい……」
「お前は我が輩の大傑作、我が輩の娘なのだ。何も気にすることはないのだ」
 そうか。
 何を心配していたのだろう。
 自分にあるのは、ザナタック様に仕えることだけなのだ。だから自分が何であろうと、ザナタック様に認めてもらえるならば、それでいいのだ。
 ザナタック様に、美しいと言ってもらえるならば……
「美しい……」
 慣れない誉め言葉が恥ずかしくて、ラーガシュは緑色の頬をうっすらと赤く染めた。
「うん。ラーガシュ、きれい。ザラ様も、きっと気に入る」
「あ! 姉様…」
 ギルメイレンはラーガシュをひょいと持ち上げると、ザラの寝台に通じるカーテンの群を、一枚一枚開き始めた。
 カーテンの彼方に、淡く暖かな光が見える。その影になって、ラーガシュの知識にあるどんな像より美しいシルエットが、寝台から起きあがった。
 ギルメイレンの手から下ろされたラーガシュは、ザナタックに促され、寝台の前にひざまづいた。
「ほう……」
 空気の中に美しく言葉を刻み込むような華麗な吐息が、ラーガシュの頭上で起きた。
「顔を上げてよろしくてよ、ラーガシュ」
 魔法の言葉に操られるように、ラーガシュはゆるゆると頭を上げた。

 そこには、ラーガシュと、ザナタック……すなわち、ラーガシュの世界全ての支配者が、微笑んでいた。

「美しい……ですわね。愛らしい容貌、見事に筋肉を備えた肉体、忠実な態度……フフ。少し髪の手入れがなっておりませんけれど、それはまたラディアンスにでも世話をさせればよろしいかしら」
 ザラのしなやかな指が、ラーガシュの頬を優しくなぞり、胸の曲線に触れながら腹筋を滑った。それだけで、あの射精という生理現象が起きてしまいそうになり、ラーガシュは身を震わせた。
「あらあら……感じてますわね…感度もなかなか…」
 ザラの指はさらに滑る。下腹を過ぎ、まだザナタックも触れていない、秘めやかな谷間へ……
「まだ手つかず…よろしいですわ。ザナタック、ギルメイレン、あなた達と共に、ゆっくりと、ラーガシュに教えてあげましょう。ヴァイアランスの理を、生命の喜びを……」
 ラーガシュの体はザラに軽々と抱えられ、広大なベッドに上に置かれた。ザナタックが、ギルメイレンが、そしてザラが、優しい眼差しでラーガシュの周りに横たわる。

「ザラ様…ザナタック様……ギルメイレン姉様……」
 私の新しい世界は、これから始まる。
 全てをくれた、あの人と一緒に。

ケイオスオーク・ラーガシュ by Rebis


 ザナタックによって人工的に創られた、究極のオーク。高い知能と身体的能力を合わせ持ち、その容貌と肉体は生物としての理想に近いほどに美しい。
 まだ生まれたばかりであるが、すでに奴隷としての高い才能を示している。今後の経験とともに、その才を成長させていくことであろう。
 ザラ、ザナタックの命令に特によく従い、またギルメイレンのことを姉のように慕っている。
 知識量のわりに経験が少ないので、しょっちゅう物事を誤解したり取り違えたりする。その様子は、今後の物語で語られることだろう。


 オークです。
 リザードマンであるシシャールと並び、いつかデビューさせようデビューさせようと願っていた、両性具有のオーク娘なのです。
 シシャールと同様、種族としてのマイナスイメージと本人とのギャップが、テーマなのでした。
 皆さんもザラ様のように、ラーガシュを気に入ってくれるでしょうか……
 ちなみに、ウォーハンマー世界のオークは肌が緑色なのです。原典では黒とかUOでは黄土色とか、色々ありますね。