エルフに手を出したのは、迂闊だった。
もう数十分も前から、カナディアは森の中を駆け回っていた。
奴らは姿を見せない。
だが、葉の合間に、根の隙間に、草の影に、無数の眼が潜んでいるのを感じる。
息が切れ、足が鈍った瞬間。
カナディアの腿を、矢が貫いた。
そいつらは、全身を傷に覆われ、奇抜な色で髪を染め、両手に武器を構えたまま、カナディアを囲んでいた。
噂に聞いたことがある。
森エルフの中には、舞い踊りながら敵を斬る戦士達がいるという。
舞闘家、舞を剣技とする者達。
そして、奴らに敵う人間はいないとも、聞いた。
先頭に立つ女エルフが、一歩進み出てカナディアを睨み付けた。
全身の筋肉はカナディア以上に鍛え上げられている。動きには寸分の隙もない。
舞闘家は何かを噛み砕くように歯を震わせた後、低い声を発した。
「我が名はシャルリアン。貴様が汚した娘は私の妹だ」
シャルリアンが言い終わる前に、カナディアは石弓を放っていた。
女エルフは寸前でそれをかわす。背後の一人の胸に矢が突き刺さる。
歌うような雄叫びを上げて、シャルリアンは回転した。
幾条もの刃が一斉にカナディアを襲い、肉を切り裂き、左手を切り落とした。
「その罪を死でもって償え、汚らわしいミュータントめ!」
銀の曲刀がカナディアの豊かな乳房に突き刺さる。
黒いオイルを吐き戻して、カナディアは崩れ落ちた。
命が体から流れ出していく。
弱い者が死ぬ。それがルールだ。
弱い者……
俺は……死ぬのか。
カナディアの体の中で、何かが回転を始めた。
遙か彼方。混沌の虚空から力を引き出すその機関は、強大なエネルギーを発生させ、カナディアの傷を機械に置き換え、全身に生きたコードを伸ばす。
右腕は、籠手や剣や黒い男根に姿を変える、複雑な機械に置き換わった。
斬られた左手の断面も、金属の断片で覆われていく。
その先から、鉄の雨が迸った。
血が、森を染めた。
マシンガンに変化した腕でエルフを虐殺したカナディアは、やがて暗い森を彷徨う内に、混沌の軍勢と出会った。
それを率いる人物を見た瞬間、体の底が震え、知らずに射精していた。
悪魔のような愛らしさと、カナディアを上回る邪悪さと、狂おしい程に快楽の詰まった肉体。
そして何より……
絶対的な、強さ。
強い者に組み敷かれる快楽を、強い者を犯し抜く快楽を、カナディアはその日初めて教えられた。
「キミ、カナディアっていうんだ。結構気に入ったよ。今夜から、ボクのオナニー用のマシーンにしてあげるね」
今宵もカナディアは主人に体を開き、あらん限りの快楽を貪る。
ルキナ様が全て。
それが、ルールだ。
NEXT Night→Mano Ballow