Xmasスペシャルストーリー2

サワナのクリスマス














 ビルが揺れていた。
 爆炎は遙か眼下で立ち上ると、陸橋のクリスマスツリーを呑み込んでいた。
 あちこちで挙がる悲鳴。
 ドラムの音……違う、銃声!?

 戦慄と恐怖が、サワナの腹腔に沸き上がる。

 ううん、慌てちゃダメ。ルキナ様達と合流しなきゃ。

 サワナは頭から恐怖を振り払うと、落ち着いて辺りを見回した。
 かつての自分なら、為す術もなく立ちすくんでいただろう。
 だが、迷宮を巨大な破壊神が襲い、天地までもが裂け崩れたあの時を思い出せ。
 ルキナ様が助けてくれる。シオン=ヴァイアランスの加護が、きっと自分を守ってくれる。

 サワナは駆け出した。
 エレベーターは危険だ。階段。
 廊下に足音。
 短い銃声と、嫌な呻き声。ドサリと何かが倒れ、女が絶叫する。

 走った。

 階段の前まで来て、サワナは途中見たビルの構造図を思い出した。
 入り口…売場が続いて…レストランがある……
 連絡通路!
 下は爆発できっと燃えている。上で避難を待っても、銃を持った何者かがいるのだ。ビルの間を渡る連絡通路で隣の建物に逃げれば、ショッピングモールまでは内部で繋がっている。

 サワナはハンカチを口に当て、階段を降り始めた。
 幸い煙は上がってこない。
 壁に大きく描かれた階表示が、数字を減らしていった。
 その最中にも、遠くから銃声と怒号が響いてくる。

「おい! ダメだ、戻れ! 下はダメだ!!」
 サワナの眼下から、どこかの飲食店の制服を着た男が、駆け上って来た。
「テロだ! 最近ニュースで…」

 タタタタタン。

 あっけない音と共に、男の体に複数の穴が空いた。
 しゃっくりのような息を吐き出して、男は真っ赤な階段に倒れた。
 階下から複数の足音。
「I got it!」
「まだいるぞッ!」
「Blood for my Bloody Lord!!!」
 複数の言語で叫び声が上がる。階段と手すりの隙間から、金髪とスキンヘッドの男が見えた。

 サワナは振り向いて、上階に戻ろうとした。
 駆け上がり、踊り場を走り……

 爆風。

 上の階で爆発が起きたのか。
 サワナは踊り場の壁に叩きつけられ、たまらず身を丸めた。辺りがオレンジ色に染まり、コンクリートの破片が階段を転げ落ちてくる。

 その間にも、テロリストはサワナに迫っていた。
「殺せ! 殺せ殺せ殺せ殺せ!!」
 狂気を孕んだつぶやきが階段を登る。
 身を起こしたサワナに、銃口が二つ、向けられた。


「伏せろっ!!」

 銃声。銃声。
 金髪の頭右半分が消え失せ、スキンヘッドの着るシャツが紅い色に変わっていた。
 金髪は下の階まで転がり落ち、もう一人はうずくまるようにしてその場に動かなくなった。

 サワナは声のした方向に、ゆっくりと振り返る。

 黒いコートの下に黒いライダースーツを着た影は、銃…散弾銃…?…を片手にして、上の階から降りてきた。
 照明が逆光となり、その顔はよく見えない。
 だが、影はサワナを見るなり絶句した。

「……サっ……!!!!」

 タタン。

 影の脇腹から、血が噴き出した。
 スキンヘッドのテロリストは、絶命寸前に引いたトリガーに指をかけ、笑ったまま息絶えていた。

「…サ……ワ…ナ…?」
 影は搾り出すようにつぶやくと…

 その場に、崩れ落ちた。

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