ザラのブーツが再び神殿の床を踏みしめた瞬間、聖堂には無数の吐息が満ちた。

 声なき悲痛な叫びと、沸き上がる歓喜。

 まだ朦朧としているルキナ……その身には、二本目のペニスが解放されて戻っている……を抱きかかえ、ザラは静かに、神像の中から歩み出た。

「…ザラ様っ!」
「ザラ様ぁ!!」
「ルキナ様っ!」
「そんなっ…」
「ザラさま!」
「やっぱり……!」

 居並ぶ戦士奴隷の列から、たちまちに様々な声が飛び交った。
 喜びに飛びはね、抱き合い、歓声を上げるザラ勢の者達。
 あるいは声もなくへたり込み、あるいは泣き出し、主に駆け寄ろうとするルキナ勢の者達。
 ザラはそれらの声と動きを、右手一つを挙げて制すると、ヴァイアランスの祭壇の上にルキナを寝かせた。

「ん…」
 うっすらと目を開けたルキナが、駆け寄る部下達につぶやく。
「へへ…ゴメンね……負けちゃった……」
 ルキナを案ずる声と、もはや意味を為さない悲鳴の数々が、祭壇を囲むルキナ勢から発せられた。

「今、ルキナさんが言った通りですわ。この聖戦……我、ザラ=ヒルシュが勝利いたしましたことよ!!」
 一際大きな歓声と消沈が、ザラの眼下に広がった。

「今日この時より、魔神殿ヴァイアランスの守護者はワタクシですわ!」
 神殿のかがり火が大きく燃え立ち、黒いマントは波と逆立って、ザラを讃えるがごとく激しい炎の陰影を造り出す。
「二陣営の戦士奴隷は、全員が今日より統合、ワタクシの指揮下とします。同時に我が陣幕を資材として神殿を増築、建物もまた統合いたしますわ」
 不安げなざわめきが、聖堂を満たした。

「でっ……では…ザラっ……様……、ルキナ様は、ルキナ様のご処置は!?」
 大勢の奴隷にしがみつかれ、自身も目に涙を溜めながら、ルキナ勢の副官・ギルディアが叫んだ。


「ルキナさんには……」

 祭壇に寝かせたルキナの顎を撫で、ザラは唇を歪ませる。

「当然、ワタクシの奴隷となっていただきます」

 再び、ルキナ勢がどよめいた。泣き崩れる者、ザラに食ってかかろうとして止められる者、放心する者……

「お静かになさい!!」
 ザラの一喝、今までよりさらに威厳を増した一声で、聖堂はたちまち静寂を取り戻した。
「最後までお聞きなさい。ルキナさんには奴隷になっていただきます。ただしそれは、一週間だけですわ」
 え…? という小さな疑問の声が、戦士奴隷全体から上がった。
 祭壇の上でぼんやりとしていたルキナも、驚きながらザラを振り返る。

「その後には、ルキナさんにも守護者として復帰していただきます。一週間後には、一つの神殿に二人の守護者……二つを一つに統べるシオン=ヴァイアランスの御心に従い、ザラ=ヒルシュとルキナ=フェムール=メルメイン=カイアス=レクドミナが、神殿を統治いたしますわ!」
「……ザラ……」
 目に涙をにじませ、頬を染めながら、ルキナが手を伸ばした。
 ザラはその手を優しく握り、微笑み返す。


 今度こそ、全ての者の歓声が、ヴァイアランス神殿を満たした。

 悦びに踊る子らの姿を見守り、ただシオン=ヴァイアランス神像だけが、変わらぬ静かな微笑みを浮かべていた。


(混沌聖戦 完)

最終勝利陣営:ザラ陣営
勝者:ザラ=ヒルシュ(ザラ陣営)

ザラ「ワタクシは…研鑽を欠かさなかった。ただ、それだけのことですわ」



一年半を越える長期連載企画のご愛読、ありがとうございました。
ご覧の通り、激しくも長い戦いの末、聖戦はザラが勝利を収める結果となりましたようです。

今後の魔神殿ヴァイアランスは、ルキナとザラの二人を守護者として、コンテンツを整理・拡張していく予定。
皆様にさらにお楽しみいただける、CG&ストーリー企画発信基地となっていくかと思います。

また、一週間に渡るルキナの奴隷生活日誌「ルキナ様の奴隷なる一週間(仮)」なる企画も、予定しております。
どうか、ご期待下さい。

それでは改めて…長い間お付き合い下さいました皆様に…
ありがとうございました。

Dunegon Master Rebis




 かくて、聖戦は終わりを告げた。
 淫絶なる争乱の翼はたたまれ、ヴァイアランスの子らに一時の平穏が立ち戻る。

 されども魔神達よ、さらなる加護と恩寵を。
 そう、それはシオンの円環。終わりの時は、始まりでしかない。


NEXT is...


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